【故事成語】
石、玉をつつみて山輝く
【読み方】
いし、たまをつつみてやまかがやく
【意味】
学問や徳のある人は、そのすぐれた内面が自然に外へあらわれ、周囲を明るくするということ。また、文章の中にすぐれた一節があれば、その一節によって文章全体が引き立つこと。


【英語】
・one’s inner worth shines through(内面の価値が自然に表に現れる)
・a shining example(周囲を照らすようなすぐれた例)
【類義語】
・嚢中の錐(のうちゅうのきり)
・錐嚢中に処るが如し(きりのうちゅうにおるがごとし)
・瑠璃も玻璃も照らせば光る(るりもはりもてらせばひかる)
【対義語】
・宝の持ち腐れ(たからのもちぐされ)
・玉磨かざれば光なし(たまみがかざればひかりなし)
「石、玉をつつみて山輝く」の故事
この故事成語は、中国の西晋(せいしん)の文人、陸機(りくき)の『文賦(ぶんのふ)』に出てくる「石韞玉而山輝、水懷珠而川媚」という一節にもとづく言葉です。石の中に玉が包まれていれば山が輝き、水の中に珠が含まれていれば川が美しく見える、という意味をもっています。
陸機は、中国の西晋時代に活躍した文人で、字(あざな)を士衡(しこう)といいました。『文賦』は、文章を作るときの心の働きや、すぐれた表現のあり方を述べた文学論として知られています。
「賦(ふ)」は、漢文の文体の一つで、対句を多く用い、句末で韻をふむ特徴があります。『文賦』という題は、文章について論じる内容を、この賦の形式で述べたものとして理解できます。
原文の「韞(つつ)む」は、内にしまいこむ、包みこむという意味に通じます。石の中に玉が見えない形で含まれていても、その美しさは山全体を輝かせる、という比喩になっています。
同じ一節に並ぶ「水懷珠而川媚」は、水が珠を抱いていれば、川全体がうるわしくなるという意味です。山と川、玉と珠を対にして、内側にあるすぐれたものが、外側の全体まで美しくすることを述べています。
『文賦』のこの部分は、文章の中に、ほかと少し調子の違うすぐれた言葉や、ひときわ目立つ句がある場合を語る流れの中に置かれています。たとえ周囲と完全にはそろわなくても、よい一節が入ることで、文章全体に光が加わるという考えが示されています。
そのため、この故事成語は、人の徳や学問が自然に外へあらわれるという意味だけでなく、文章の中の名句が全体を引き立てるという意味でも使われます。石の中の玉が山を輝かせるように、ひとつのすぐれたものが周囲を高めるという点が、意味の中心です。
日本語では、「石、玉をつつみて山輝く」という形で、漢文の「石韞玉而山輝」を読み下した表現として受け継がれています。「つつみて」とすることで、玉が外から飾られているのではなく、石の内にひそかに含まれていることが分かりやすくなっています。
ここでいう「玉」は、ただの飾りではなく、内にある価値の象徴です。人についていえば、学問、徳、才能、まじめな努力などがそれに当たり、文章についていえば、全体を生き生きとさせるすぐれた表現がそれに当たります。
似た発想を持つ言葉に、「嚢中の錐」や「瑠璃も玻璃も照らせば光る」があります。どちらも、すぐれた才能や価値は、隠れていてもやがて自然に目立つという考えを表しています。
一方で、「宝の持ち腐れ」や「玉磨かざれば光なし」は、価値あるものを持っていても、それを生かさなければ真価が発揮されないという方向の言葉です。そこには、内なる価値がただあるだけでなく、よい形で外にあらわれることの大切さも読み取れます。
現在の使い方では、目立とうとして飾り立てる人をほめる言葉ではありません。内面の学びや徳、文章の中の本当にすぐれた表現が、静かに全体を照らすように働くときに、この故事成語の意味が自然に生きます。
「石、玉をつつみて山輝く」の使い方




「石、玉をつつみて山輝く」の例文
- 目立たない生徒だったが、毎日の親切な行いが周囲を明るくし、石、玉をつつみて山輝くという言葉どおりだった。
- 部長の落ち着いた判断が班全体を支え、石、玉をつつみて山輝くように、会議の空気までよくなった。
- 作文の最後の一文が深く、石、玉をつつみて山輝くように作品全体を引き締めていた。
- 祖母の静かな思いやりは、石、玉をつつみて山輝くように、家族みんなの心をあたたかくした。
- 派手な発表ではなかったが、確かな調査と誠実な説明が光り、石、玉をつつみて山輝く発表となった。
- 新人の一つの提案が計画全体をよくし、石、玉をつつみて山輝くとはこのことだと思った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・陸機『文賦』西晋。
・房玄齢等撰『晋書』唐代。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。























