【故事成語】
一薫一蕕十年なお臭あり
【読み方】
いっくんいちゆうじゅうねんなおしゅうあり
【意味】
善いものは消えやすく、悪いものや悪い影響は長く残りやすいことのたとえ。善行やよい評判よりも、悪行や悪い評判のほうが強く残ることをいう。


【英語】
・one rotten apple spoils the barrel(一つの悪いものが全体をだめにする)
【類義語】
・一薫一蕕(いっくんいちゆう)
・百日の説法屁一つ(ひゃくにちのせっぽうへひとつ)
・悪事千里を走る(あくじせんりをはしる)
「一薫一蕕十年なお臭あり」の故事
「一薫一蕕十年なお臭あり」は、中国古典の『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』僖公四年に出てくる「一薰一蕕,十年尚猶有臭」にもとづく故事成語です。『春秋左氏伝』は『左氏伝』『左伝』とも呼ばれ、『春秋』の背景となる史実を物語る重要な古典です。
もとの場面では、晋の献公が驪姫(りき)を夫人にしようとします。亀甲による占いでは不吉、筮竹による占いでは吉と出たため、献公は筮竹の結果に従おうとしますが、占い師は「筮短龜長、不如從長」と述べ、亀甲の占いを重く見るべきだと諫めます。
その占いの言葉の中に、「一薰一蕕,十年尚猶有臭」とあります。これは、香草と悪臭の草を一緒にすれば、十年たってもなお悪いにおいが残る、という意味です。『春秋左伝正義』の注にも、「薰,香草。蕕,臭草。十年有臭,言善易消,惡難除」とあり、よいものは消えやすく、悪いものは取り除きにくいという意味を明らかにしています。
ここでの「薫」と「蕕」は、単なる植物名にとどまりません。よい香りの草は善いもの、悪臭の草は悪いものを表し、両者が同じところにあると、悪いにおいのほうが強く残るという比喩になっています。この比喩によって、悪い影響が善いものを損ない、長くあとを引くことが示されています。
献公は占い師の戒めを聞き入れず、驪姫を立てました。その後、驪姫は献公の太子を陥れるため、太子が祭りのあとに献公へ届けた肉に毒を入れたと疑われるような事件を起こし、太子は追いつめられて自ら命を絶つことになります。さらに、重耳や夷吾も国を出ることになり、晋の国は大きく乱れていきます。
この流れから分かるように、「一薫一蕕十年なお臭あり」は、悪いものが一つ混じると、ただその場だけを汚すのではなく、長く全体に影響を残すという戒めです。香草のよい香りが悪臭に負けてしまうように、善い行いの積み重ねも、悪い行いによって傷つけられることがあります。
日本語では、「一薫一蕕」という短い形でも、善は消えやすく悪は除きがたいことを表します。「十年なお臭あり」まで添える形では、悪い影響や悪い評判が長く残るという点が、いっそうはっきり伝わります。
この故事成語は、人をただ厳しく責めるための言葉ではありません。長く築いた信頼や善い評判は大切に守るべきものであり、小さな悪事や不正を軽く見てはいけない、という教えを含んでいます。
「一薫一蕕十年なお臭あり」の使い方




「一薫一蕕十年なお臭あり」の例文
- 長年よい評判を保ってきた店でも、一度の産地偽装で一薫一蕕十年なお臭ありとなった。
- 部活動の熱心な努力も、一人の不正出場によって一薫一蕕十年なお臭ありの状態になった。
- 会社の多くの善行よりも一つの隠蔽が強く記憶され、一薫一蕕十年なお臭ありといわれた。
- 友人を助けてきた人でも、重大な裏切りをすれば一薫一蕕十年なお臭ありになりかねない。
- 政治家の長い実績も、汚職が明るみに出れば一薫一蕕十年なお臭ありで信用を失う。
- 一薫一蕕十年なお臭ありというように、悪い行いの影響は思った以上に長く残る。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『春秋左氏伝』。
・杜預注、孔穎達疏『春秋左伝正義』唐。
・『The American Heritage Dictionary of Idioms』Houghton Mifflin Harcourt、2002年。























