【故事成語】
一簣の功
【読み方】
いっきのこう
【意味】
完成直前の最後の努力。また、物事を完成させるために積み重ねる一つ一つの努力の大切さ。


【対義語】
・九仞の功を一簣に虧く(きゅうじんのこうをいっきにかく)
「一簣の功」の故事
「一簣の功」は、中国古典の『書経(しょきょう)』「旅獒(りょごう)」に出てくる「為山九仞、功虧一簣」という言葉を背景にもつ表現です。『書経』は、古くは『書』『尚書(しょうしょ)』とも呼ばれ、中国の政治や教えに関する古い文章を集めた経書で、五経の一つに数えられてきました。
「旅獒」の話は、周の武王が殷を破ったのち、周辺の国々が周に従うようになった時代を背景にしています。西方の旅という国から大きな犬が献上されると、太保であった召公は、珍しい品に心を奪われて政治の務めをゆるがせにしてはならないと、武王を戒める文章を作りました。
その戒めの中に、「不矜細行、終累大德。為山九仞、功虧一簣」とあります。小さな行いを慎まなければ、ついには大きな徳を損なう。九仞もの高い山を築いても、最後のもっこ一杯の土が欠ければ、山は完成しない、という意味です。
ここでいう「九仞」は非常に高いことを表し、「簣」は土を載せて運ぶ竹製のかご、つまり、もっこのことです。土山を築く作業では、最後の一杯だけを残してやめても、完成したとはいえません。そのため、この言葉は、長い努力も、最後のわずかな油断や手違いでむだになる、という戒めとして伝わりました。
もとの形は「功虧一簣」、また、日本語では「九仞の功を一簣に虧く」という、失敗への戒めを表す言い方です。そこから「一簣の功」は、最後のもっこ一杯にあたる努力、つまり、完成直前のひと骨折りを表す言葉として用いられるようになりました。さらに、事業を完成させるために重ねていく、一つ一つの努力の大切さも表すようになっています。
日本語での古い用例として、江戸時代中期の洒落本『大抵御覧(たいていごらん)』(1779年、朱楽菅江作)に、「だんだんつもる一簣(キ)の功(コウ)、終に九仭(きうじん)の山となれり」とあります。ここでは、一杯ずつ土を積み重ねるような小さな努力が、最後には高い山を成す、という方向で用いられています。
このように、「一簣の功」は、もとは「最後の一杯が欠ければ完成しない」という戒めから生まれた表現です。しかし、現在は、失敗を戒めるだけでなく、最後まで手を抜かないこと、そして小さな努力を積み重ねることの大切さを示す言葉として理解されています。
「一簣の功」の使い方




「一簣の功」の例文
- 大会前日のフォーム確認を怠らなかったことが、一簣の功となって自己記録更新につながった。
- 長く準備した商談も、最後の資料確認という一簣の功を欠けば信頼を失う。
- 卒業文集は、誤字を直す一簣の功を重ねて、読みやすい一冊に仕上がった。
- 家族旅行の計画は、出発前に持ち物を確かめる一簣の功で安心して出かけられた。
- 新商品の発表は、箱の表示を見直す一簣の功によって失敗を防いだ。
- 毎日の練習に加え、本番直前の発声という一簣の功が合唱を支えた。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『尚書』「周書・旅獒」。
・孔安国伝、孔穎達疏『尚書正義』。
・朱楽菅江『大抵御覧』1779年。























