【ことわざ】
一押し二金三男
【読み方】
いちおしにかねさんおとこ
【意味】
女性を口説くには、まず押しの強さが大切で、金の力や男振りのよさはその次の条件であるということ。


【英語】
・Faint heart never won fair lady(内気でいては、望む相手や目的を得にくい)
【類義語】
・一暇二金三男(いちひまにかねさんおとこ)
・一押し二金三姿四程五芸(いちおしにかねさんすがたしほどごげい)
「一押し二金三男」の語源・由来
「一押し二金三男」は、中国古典の人物や事件に由来する故事成語ではなく、日本で恋愛や色恋をめぐる考え方を、数を使って順序よく表したことわざです。「一押し」は積極的に働きかける力、「二金」は金銭の力、「三男」は男振り、つまり男性としての見た目や魅力を指します。三つを並べることで、見た目よりもまず行動の強さが大事だという、やや俗っぽい恋愛観を短く言い表しています。
このことわざの背景には、江戸時代の遊里や色恋をめぐる言い回しがあります。近い形として「一金二男」という言葉があり、これは遊興には第一に金が必要で、男振りは二の次である、という意味です。『好色盛衰記(こうしょくせいすいき)』(1688年・江戸時代前期、井原西鶴作)には、「色里かよひもその通、一金二男(いちキンにナン)と申」とあり、色里に通うにはまず金の力が重く見られていたことが分かります。
『好色盛衰記』は五巻五冊の浮世草子で、井原西鶴の著作として伝わる作品です。浮世草子は、江戸時代前期から中期にかけて、主に京坂の町人社会の風俗や人情を描いた小説の流れであり、金銭、遊興、恋愛、町人生活などを身近な題材として扱いました。そのような文学や会話の世界では、恋愛や遊興をめぐる条件を「一、二、三」と並べる表現が、調子のよい決まり文句として育ちやすかったといえます。
「一金二男」が金を第一に置く言い方であるのに対し、「一押し二金三男」は、金より前に「押し」を置きます。この変化によって、ただ財力や容姿だけでなく、相手に働きかける勇気や積極性を重く見る言い方になりました。さらに、同じ系統の表現として「一暇二金三男」もあり、「一押し二金三男」は、似た発想をもつ複数の言い回しの中で定着した形です。
また、「一押し二金三姿四程五芸」という長い形もあります。この形では、「男」ではなく「姿」を三番目に置き、そのあとに「程」や「芸」まで加えています。恋愛で重んじられるものを、押し、金、姿、程、芸と順に並べるもので、「一押し二金三男」よりも条件を細かく広げた表現です。
近現代の用例では、杉本章子『きずな』(2004年)に「女を口説くには、一押し、二金、三男ってね。男は、顔で色恋をするもんじゃない」という使い方があります。ここでは、顔立ちのよさよりも、まず相手に働きかける勢いが大事だという意味で用いられています。
ただし、このことわざは、昔の恋愛観や男女観を強く含む表現です。現代では、相手の気持ちを尊重することが大前提であり、「押し」を、相手が嫌がるほど強引に迫ることと同じに考えてはいけません。ことわざとしては、臆病で何もしないより、自分の思いをきちんと伝える積極性が大切だという意味にほどいて理解するとよいでしょう。
「一押し二金三男」の使い方




「一押し二金三男」の例文
- 一押し二金三男は、女性を口説くには押しの強さが第一だという、昔の恋愛観を表すことわざ。
- 国語の授業で、一押し二金三男という表現を取り上げ、昔の男女観について考えた。
- 一押し二金三男という言い方には、見た目よりも積極性を重んじる考えが表れている。
- 祖父は昔の言い回しとして一押し二金三男を知っていたが、今は相手を尊重することが何より大切だと話した。
- 一押し二金三男を使うときは、相手の気持ちを無視する意味に受け取られないよう注意が必要。
- 小説の登場人物は、一押し二金三男という古いことわざを持ち出して、恋に臆病な友人を励ました。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・井原西鶴『好色盛衰記』1688年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。























