【故事成語】
一頭地を抜く
【読み方】
いっとうちをぬく
【意味】
ほかの多くの人や物より、一段とすぐれていること。


【英語】
・stand head and shoulders above others(ほかの人や物よりはるかにすぐれている)
【類義語】
・群を抜く(ぐんをぬく)
・頭一つ抜ける(あたまひとつぬける)
【対義語】
・肩を並べる(かたをならべる)
「一頭地を抜く」の故事
「一頭地を抜く」は、中国の古い文章に出てくる「一頭地を出す」という言い方にもとづく故事成語です。「一頭」は、頭一つ分の高さを表し、「地」は漢文で語調を整える助辞として添えられた言葉です。そのため「一頭地」は、実際には「頭一つ分ほど」という意味で受け取ることができます。
もとの話は、北宋の文人であった欧陽脩と、のちに中国を代表する文人となる蘇軾に関わります。『宋史』(そうし)(1345年完成、元の脱脱ら編)は、宋の歴史を記した正史で、全496巻の大きな史書です。
『宋史』蘇軾伝には、若いころの蘇軾が経書や史書に広く通じ、文章を一日に数千言も書いたことが記されています。嘉祐二年、礼部の試験で欧陽脩は蘇軾の「刑賞忠厚論」を読み、非常に喜びましたが、知人である曾鞏の文章ではないかと疑い、第一ではなく第二に置いた、とあります。
その後、蘇軾が自分の文章を欧陽脩に見せると、欧陽脩は梅聖俞に向かって「吾當避此人出一頭地」と語りました。これは、自分はこの人に道を譲り、頭一つ分ほど抜け出させるべきだ、という意味です。聞いた人々は初めは騒ぎましたが、しばらくすると蘇軾の才能を信じて敬服するようになった、と『宋史』は伝えています。
さらに、欧陽脩の書簡にも、この故事のもとになる表現が出てきます。『欧陽修全集』巻一四九に収める「与梅聖俞書」には、「読軾書、不覚汗出、快哉快哉!老夫当避路、放他出一頭地也」とあります。蘇軾の文章を読んで思わず汗が出るほど感動し、自分のような年長者は道を譲って、彼を頭一つ分抜け出させるべきだ、とたたえた言葉です。
この故事では、欧陽脩が自分より若い蘇軾の才能を見抜き、その将来を認めたことが大切です。単に人より少し上手だという程度ではなく、多くの人の中で明らかに抜きん出て、周囲が一目置くほどすぐれている、という意味がここから生まれました。
日本語では、「一頭地を出だす」「一頭地を擢ず」などの形も同じ流れで用いられました。江戸時代初期ごろの『碧巖鈔』には「一頭地出いて」といった古い用例があり、近代には森鴎外の『渋江抽斎』(大正5年)にも「一頭地を抜いて」という形が出てきます。こうして、漢籍に由来する表現が、日本語では「一頭地を抜く」という言い方として定着していきました。
現在の「一頭地を抜く」は、蘇軾の故事がもつ重みを残しながら、学力、芸術、技術、仕事ぶりなどが同じ集団の中でひときわすぐれていることを表します。頭一つ分だけ抜け出るという姿を通して、ただ目立つだけでなく、実力によって周囲をしのぐ様子をいう故事成語です。
「一頭地を抜く」の使い方




「一頭地を抜く」の例文
- 彼の計算の速さは、同じ学年の中でも一頭地を抜く。
- 新人ながら、彼女の企画力は社内で一頭地を抜くものがあった。
- この作品は、色づかいの美しさで応募作の中から一頭地を抜く。
- 兄のピアノ演奏は、音の表情の豊かさで一頭地を抜く。
- その研究は、着眼点の鋭さにおいて同分野の中でも一頭地を抜く。
- 決勝戦での守備力は、両チームの選手の中でも一頭地を抜くものだった。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・脱脱ほか『宋史』1345年。
・欧陽脩『欧陽修全集』。























