【故事成語】
一擲乾坤を賭す
【読み方】
いってきけんこんをとす
【意味】
天下を取るか失うかというほどの大勝負に、すべてを運に任せて思い切って挑むこと。


【英語】
・go for broke(すべてを賭けて勝負に出る)
・risk everything on one throw of the dice(さいころの一投げにすべてを賭ける)
【類義語】
・乾坤一擲(けんこんいってき)
・一か八か(いちかばちか)
・伸るか反るか(のるかそるか)
・孤注一擲(こちゅういってき)
【対義語】
・石橋を叩いて渡る(いしばしをたたいてわたる)
「一擲乾坤を賭す」の故事
「一擲乾坤を賭す」のもととなった表現は、中国・唐代の詩人韓愈の詩「鴻溝を過ぐ」にあります。韓愈は、768年から824年に生きた文学者・思想家で、唐代を代表する文章家の一人です。
この詩は、韓愈が元和12年、現在の河南省付近にあたる鴻溝(こうこう)を通ったときの作と伝わります。鴻溝は、古く、中国で漢と楚との境に関わる場所として知られ、のちに「両者を分ける深いへだたり」という意味にも用いられるようになりました。
背景には、項羽(こうう)と劉邦(りゅうほう)が天下を争った楚漢の戦いがあります。『史記』「項羽本紀」には、漢の軍は兵も食糧も充実しており、項羽の側は疲れ、食糧も尽きていたころ、鴻溝より西を漢、東を楚と分ける約束を結んだことが記されています。
その約束のあと、項羽は劉邦の家族を返し、兵を率いて東へ退きました。ところが、劉邦が西へ帰ろうとすると、張良(ちょうりょう)と陳平(ちんぺい)は、楚が弱っている今こそ攻めるべき時だと進言し、劉邦は項羽を追うことになります。
韓愈の詩の末句には、「真成一擲賭乾坤」とあります。これは、「まことに一度の投げに、天地を賭けることになった」という意味合いで、天下の行方を一回の大勝負にかける緊張を、さいころの一投げにたとえた表現です。
ここでいう「乾坤」は、天と地を表します。「一擲」は、さいころなどを一度投げることです。つまり、世界全体の運命ともいえるほど大きなものを、ただ一度の勝負にかけるという、非常に強い表現になっています。
漢詩の語順では「一擲賭乾坤」と並びますが、日本語では、訓読の形をふまえて「一擲乾坤を賭す」と言います。また、同じ発想を四字でまとめた「乾坤一擲」も広く用いられ、どちらも運命をかけた大勝負を表します。
後の日本語では、政治、戦い、事業、試合など、結果しだいで運命が大きく変わる場面に用いられるようになりました。ただ危険なことをするという意味ではなく、退くことのできない場面で覚悟を決め、持てるものを一度の勝負にかけるところに、この故事成語の重みがあります。
「一擲乾坤を賭す」の使い方




「一擲乾坤を賭す」の例文
- 決勝戦の最終回、監督は一擲乾坤を賭す思いで代打を送った。
- 会社の存続がかかった新商品に、一擲乾坤を賭す覚悟で開発費を集中させた。
- 交渉が行き詰まったため、社長は一擲乾坤を賭す決断で新しい条件を提示した。
- 受験生たちは、一擲乾坤を賭す気持ちで最後の模擬試験に臨んだ。
- 長年温めてきた研究成果を発表する場で、彼は一擲乾坤を賭すような緊張を味わった。
- 劣勢のチームは、残り時間の少ない場面で一擲乾坤を賭す攻撃に出た。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・飯間浩明編『四字熟語を知る辞典』小学館、2018年。
・司馬遷『史記』前漢。
・韓愈『昌黎先生集』唐代。
・彭定求ほか奉勅編『御定全唐詩』清代、1707年。























