【ことわざ】
産屋の風邪は一生つく
【読み方】
うぶやのかぜはいっしょうつく
【意味】
赤ん坊のころに風邪をひかせると一生風邪をひきやすくなるという言い伝えから、幼いころについた癖は直りにくいということ。


【英語】
・The child is father of the man(子どものころの性質が大人になっても影響する)
【類義語】
・三つ子の魂百まで(みつごのたましいひゃくまで)
・雀百まで踊り忘れず(すずめひゃくまでおどりわすれず)
・噛む馬はしまいまで噛む(かむうまはしまいまでかむ)
・七夜のうちの風邪は一生つく(しちやのうちのかぜはいっしょうつく)
「産屋の風邪は一生つく」の語源・由来
「産屋の風邪は一生つく」は、生まれて間もない赤ん坊が風邪をひくと、その後も風邪をひきやすくなるという言い伝えをもとにしたことわざです。そこから、幼いころについた癖や習慣は、大人になっても抜けにくいという意味に広がりました。
「産屋」は、昔、出産のけがれを忌んで、産婦を隔離するために別に建てた家屋を指しました。また、出産するためにしつらえた部屋を指す意味もあり、出産と新生児をめぐる生活の場を表す言葉です。
「産屋」の古い例は、『日本書紀』(720年・奈良時代、舎人親王ら編)仁徳元年正月に出てきます。そこには「鷦鷯(さざき)産屋(ウブヤ)に入(とびい)れり」とあり、産婦のいる場所として「産屋」が用いられています。
平安時代には、出産のために整えられた部屋としての「産屋」も書かれました。『宇津保物語』(970〜999年ごろ成立・平安時代中期)には「うぶ屋のまうけ」とあり、出産を迎えるための用意を示す場面に出てきます。
出産の後には、「産養(うぶやしない)」という儀式も行われました。これは、子どもの将来の幸せと産婦の無病息災を祈る儀式で、平安時代の貴族社会などでは、誕生後の三日目・五日目・七日目・九日目の夜に祝いが行われました。
「七夜(しちや)」は、子が生まれて七日目の祝いを指します。『源氏物語』(1001〜1014年ごろ成立・平安時代中期、紫式部著)柏木には「七夜は内より」とあり、生後七日目の祝いが古くから大切にされていたことが分かります。
このように、産屋や七夜は、新しい命を迎え、母子の無事を祈る場や儀礼と深く結びついていました。そのため、「産屋の風邪」という言い方には、生まれたばかりの赤ん坊の体を慎重に守ろうとする、昔の生活感覚がこもっています。
「風邪」は、もとは「ふうじゃ」と読み、体内に入ってさまざまな病気を起こすと考えられた風を指しました。『医心方』(984年・平安時代中期、丹波康頼撰)には、病を起こすものとしての「風邪」の考えが記されています。
のちに「風邪」は、現在の「かぜ」、つまり感冒を指す言葉としても使われるようになりました。江戸時代後期の人情本『春色梅児誉美』(1832〜1833年、為永春水著)には「風邪(フウジャ)の煩ひ」とあり、かぜ・かぜひきの意味で用いられています。
このことわざの前半は、赤ん坊のころの風邪が後々まで影響するという具体的な言い伝えです。後半の「一生つく」は、その影響が長く残ることを強く言い表し、幼い時期の出来事がその後の状態を左右するという考えにつながっています。
そこから意味は、病気そのものだけでなく、「癖」や「習慣」にまで移りました。「癖」は、かたよった好みや傾向が習慣化したものを指し、ものの考え方、体の動き、無意識に出る行動などを含む言葉です。
「癖」という言葉も古くから使われています。『蜻蛉日記』(974年ごろ成立・平安時代中期、藤原道綱母著)には「のどらかにうちおきたるものとみえぬくせなんありける」とあり、人の性質や傾向を表す言葉として用いられています。
幼少期の性質が後まで残るという発想は、「三つ子の魂百まで」にもよく表れています。このことわざは、幼いころの性格は年をとっても変わらないという意味で、歌舞伎『兵根元曾我』(1697年・江戸時代前期)にも「三つ子の魂百までぢゃ」という例が出てきます。
また、「雀百まで踊り忘れず」は、雀が死ぬまで飛びはねる癖を失わないように、若いころに身についた習性は年をとっても変わらないという意味です。古くは「踊り忘れぬ」の形が多く、現在は「踊り忘れず」の形が広く用いられています。
「産屋の風邪は一生つく」は、これらの類義語と同じく、幼いころの影響の根強さを示す言葉です。ただし、現在の使い方では、赤ん坊の風邪を文字どおり述べるよりも、幼いころについた癖や習慣が直りにくいことをたとえる場合が多くなっています。
このことわざは、人の癖を責めるためだけの言葉ではありません。幼い時期の習慣づけをおろそかにしないこと、そして自分の癖に早く気づいて少しずつ直すことの大切さを教える表現です。
「産屋の風邪は一生つく」の使い方




「産屋の風邪は一生つく」の例文
- 産屋の風邪は一生つくというように、幼いころについた夜更かしの癖はなかなか直らない。
- 父は、片づけの習慣は小さいうちから身につけないと、産屋の風邪は一生つくとよく言う。
- 産屋の風邪は一生つくから、悪い言葉づかいは早めに改めたほうがよい。
- 弟の食べ残しの癖を見て、祖母は産屋の風邪は一生つくと心配していた。
- 産屋の風邪は一生つくとはいえ、気づいた癖は努力しだいで少しずつ直せる。
- あいさつをしない習慣が大人になっても残り、産屋の風邪は一生つくという言葉を思い出した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・平凡社編『改訂新版 世界大百科事典』平凡社、2007年。
・舎人親王ら編『日本書紀』720年。
・丹波康頼『医心方』984年。
・藤原道綱母『蜻蛉日記』974年ごろ。
・紫式部『源氏物語』1001〜1014年ごろ。























