【ことわざ】
浮世渡らば豆腐で渡れ
【読み方】
うきよわたらばとうふでわたれ
【意味】
世の中をうまく渡っていくには、けじめをきちんとつけながら、内面にはやさしさと柔軟さを持つべきだというたとえ。


「浮世渡らば豆腐で渡れ」の語源・由来
「浮世渡らば豆腐で渡れ」は、豆腐の形と柔らかさを、人が世の中で身につけるべき態度に重ねたことわざです。豆腐は四角く整った形をしていながら、力を加えれば崩れるほど柔らかいため、きちんとした態度と柔軟な心とを併せ持つもののたとえになっています。
「浮世」は、もとは「憂き世」と書き、つらいことの多い現世を指しました。その後、漢語の「浮世」の影響を受け、定めのない世の中という意味や、死後の世に対する、現実の人生という意味にも広がりました。
このことわざでいう「浮世」は、遊里や享楽の世界ではなく、人々が暮らし、さまざまな相手と関わりながら生きていく現実の世の中を指します。「世渡り」は、世の中で生活していくことや、社会の中で身を処していくことを表す言葉です。
したがって、「浮世を渡る」は、川を渡るように、変化や困難のある世の中を進んでいくことを表します。「豆腐で渡れ」は、豆腐を乗り物にするという意味ではなく、豆腐のあり方を手本にして生きよ、という比喩です。
豆腐の「四角」は、形が整っていることに加え、まじめで規律正しい態度を連想させます。「四角四面」には、真四角であるという意味と、非常にまじめで堅苦しいという意味があり、形と人柄とを結びつける土台になっています。
一方、豆腐の柔らかさは、相手の話を受け入れるやさしさや、事情に合わせて考え方を調整する柔軟さを表します。ただし、何でも相手に合わせて自分の考えを失うことではなく、守るべき筋道を保ちながら、対応の仕方を和らげるという教えです。
古い用例として、『絵本花の緑(えほんはなのみどり)』下巻(1763年・江戸時代、石川豊信画)に、現在と同じ「浮世渡らば豆腐で渡れ」という形が出てきます。同書は、須原屋茂兵衛らが版元となった、三冊からなる教育教本です。
同書の記載書名は『教訓喩草絵本花の緑』で、さまざまな教訓を絵とともに伝える作りになっています。この中にことわざが掲げられていることから、18世紀半ばには、豆腐を世渡りの手本とする言い回しが、教えを分かりやすく伝える表現として用いられていたことが分かります。
この古い用例でも、豆腐の四角四面の形と柔らかさが、生真面目さと柔和さに重ねられています。外から見える形は整えながら、内には人と争わずに接する柔らかさを持つという、現在の意味につながる考え方です。
このことわざは、単に「柔軟であれ」と説くものでも、「規則を厳しく守れ」と説くものでもありません。四角さだけでは堅苦しくなり、柔らかさだけではけじめを失いやすいため、その二つを釣り合わせることに、教えの要点があります。
江戸時代の教本に出てくる形と、現在伝わる形には、大きな違いがありません。まじめさと柔軟さを豆腐一丁の姿に重ねた分かりやすい比喩が保たれ、世の中を穏やかに、しかも筋を通して生きるための心得として受け継がれてきたことわざです。
「浮世渡らば豆腐で渡れ」の使い方




「浮世渡らば豆腐で渡れ」の例文
- 新任の店長は、規則をきちんと守りながら客の事情にも配慮し、浮世渡らば豆腐で渡れを実践している。
- 祖母は、礼儀正しくても頑固になってはいけないと、浮世渡らば豆腐で渡れの教えを孫に伝えた。
- 委員長は浮世渡らば豆腐で渡れの心で、提出期限を守らせつつ、遅れた班の事情にも耳を傾けた。
- 取引先との交渉では、浮世渡らば豆腐で渡れを胸に、基本方針を崩さず提案内容を調整した。
- 町内会長は浮世渡らば豆腐で渡れを心得て、決まりを守りながら高齢者の負担を減らす方法を選んだ。
- 父は、浮世渡らば豆腐で渡れというように、筋を通すことと思いやりを両立させてきた。
主な参考文献
・小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・石川豊信画『教訓喩草絵本花の緑』須原屋茂兵衛ほか、1763年。























