【慣用句】
兎の毛で突いたほど
【読み方】
うのけでついたほど
【意味】
きわめて微細なことのたとえ。ほんの少し。


【英語】
・a tiny amount(ごくわずかな量)
・a tiny difference(ごく小さな違い)
【類義語】
・針の先で突いたほど(はりのさきでついたほど)
・針刺すばかり(はりさすばかり)
・兎の毛の先ほど(うのけのさきほど)
「兎の毛で突いたほど」の語源・由来
「兎の毛で突いたほど」は、「兎の毛」という非常に細いものを使って、物事の小ささをたとえた言い方です。「兎の毛」は、文字どおりにはウサギの毛を指し、そこから「きわめて微細な物事」「ほんの少し」を表す言葉としても用いられます。
「兎」は、この慣用句では「う」と読みます。「うのけ」は「兎毛」とも書き、古くから兎の毛そのものを表すとともに、きわめて小さいもののたとえとしても使われてきました。
「兎毛」の古い用例として、『拾遺愚草』(1216〜1233年ごろ成立・鎌倉時代、藤原定家著)には、「露を待つうのけのいかにしをるらん月の桂の影を頼みて」とあります。ここでは、露を待つ兎の毛という、細く小さなものを思わせる表現として用いられています。
さらに、「うのけほども」という形では、物事がきわめて小さいことを表す用法が見られます。永正10年(1513年・室町時代後期)の文書には、「菟毛程」という表記があり、ほんのわずかも、という意味合いで使われています。
現在の慣用句に近い「兎毛の先ほど」という形は、『日葡辞書』(1603〜1604年・安土桃山時代末期から江戸時代初期、イエズス会編)に出てきます。「Vno qeno saqi fodomo チガワヌ」は、「兎の毛の先ほども違わぬ」という意味で、わずかな違いもないことを表しています。
この「兎毛の先ほど」は、「兎の毛で突いたほど」と同じ意味を表す近い形です。兎の毛そのものの細さに加え、その先端というさらに小さな部分を出すことで、差や量がほとんどないことを強く示しています。
「兎の毛で突いたほど」の形は、江戸時代前期の浮世草子に出てきます。『本朝桜陰比事』(1689年・江戸時代前期、井原西鶴著)は、五巻五冊から成る短編小説集で、裁判説話を多く載せた作品です。
その巻五には、「あの娘見えわたりましたる所には卯(ウ)の毛(ケ)で突(ツイ)たる程も子細はなし」という用例があります。これは、あの娘について見渡したところ、兎の毛で突いたほどの少しの事情もない、つまり少しの問題もない、という意味です。
この用例では、単に「小さい」というだけでなく、「少しもない」「わずかな欠点もない」という文脈で使われています。細い兎の毛で突いた跡のように、ほとんど見分けられないほどの小ささを表す点が、現在の意味とよくつながります。
のちには、「兎の毛」「兎毛の先ほど」「兎の毛で突いたほど」が、それぞれ「ほんの少し」「きわめて微細なこと」を表す言い方として定着しました。いずれも、兎の毛の細さをもとにして、数量・差・すきま・程度の小ささを言い表す表現です。
また、近い発想の表現に「針の先で突いたほど」があります。針の先も非常に小さいものを表すため、ごくわずかなことのたとえとして使われ、「兎の毛で突いたほど」と同じ方向の意味をもっています。
この慣用句は、大げさな小ささではなく、ほとんど気づかないほどの小ささを言うときに生きる表現です。兎の毛というやわらかく細いものを思い浮かべることで、「ほんの少し」という意味を、やさしい比喩として伝えています。
「兎の毛で突いたほど」の使い方




「兎の毛で突いたほど」の例文
- 二つの絵の色の違いは、兎の毛で突いたほどしかない。
- 昨日より点数は上がったが、兎の毛で突いたほどの差だった。
- 兄弟の背の高さは、兎の毛で突いたほどしか変わらない。
- 計画書の内容を見直したが、変更点は兎の毛で突いたほどだった。
- この箱とあの箱の重さには、兎の毛で突いたほどの違いもない。
- 兎の毛で突いたほどのすきまから、細い光が差し込んでいた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・藤原定家『拾遺愚草』1216〜1233年ごろ。
・イエズス会編『日葡辞書』1603〜1604年。
・井原西鶴『本朝桜陰比事』1689年。























