【故事成語】
患いを救い災いを分かつ
【読み方】
うれいをすくいわざわいをわかつ
【意味】
困っている人を助け、その苦しみや災難を共に引き受けること。人として行うべき助け合いの心得。


【英語】
・lend someone a helping hand(困っている人に手を差し伸べる)
・share the burden(苦労や負担を分かち合う)
【類義語】
・相身互い(あいみたがい)
・同舟相救う(どうしゅうあいすくう)
【対義語】
・対岸の火事(たいがんのかじ)
「患いを救い災いを分かつ」の故事
「患いを救い災いを分かつ」は、中国古典の『春秋左氏伝(しゅんじゅうさしでん)』「僖公元年」に記された言葉にもとづきます。『春秋左氏伝』は、魯の国の年代記『春秋』に記された出来事を、詳しい物語や言葉によって伝える書物です。左丘明の作と伝わりますが、作者や成立時期については諸説があります。
故事の背景となったのは、前659年に当たる僖公元年の出来事です。北方の狄が邢(けい)の国を攻めたため、斉・宋・曹の軍が、邢を救うために進みました。
邢の人々は国を保つことができず、救援に来た軍のもとへ逃れました。諸国の軍は狄を追い払い、邢の人々が新しい土地で暮らせるよう、移住に必要な道具や物資を整えました。
その際、救援軍は邢の財産を私物にしませんでした。敵を退けるだけでなく、人々が再び生活を始められるところまで支えたことが、この故事の大切な点です。
その年の夏、邢は夷儀へ都を移し、諸侯は力を合わせて新しい城を築きました。この出来事に続いて、『春秋左氏伝』には、「凡そ侯伯、患いを救い、災いを分かち、罪を討つは、礼なり」という趣旨の言葉があります。
ここでいう「救患」は、危機に陥った国や人々を救うことです。「分災」は、災難を受けた人に負担を背負わせたままにせず、その損害や苦労を周囲の者も分け持つことを表します。
西晋の杜預は、「分災」について、穀物や絹布を分け与えることだと注しました。唐代の注釈でも、災害に遭った者に財物を分けることだと説いており、単に同情するのではなく、生活に役立つ物を差し出す具体的な援助を意味していました。
原文では、地方の諸侯をまとめる立場の者が、苦境を救い、災害の負担を分かち、罪ある者を討つことを「礼」、すなわち社会の秩序を守る正しい行いとしています。国や地域を導く者には、困っている国を放置せず、力を合わせて救う責任があるという考えです。
「救患」と「分災」は、後に中国語で「救患分災」という四字の形でも用いられました。日本語の「患いを救い災いを分かつ」は、この二つの言葉を訓読し、その教えが伝わりやすい形にした表現です。
現在では、国どうしの救援に限らず、災害や病気などで困っている人を助け、その苦しみや負担を共に引き受けるという広い意味で使われます。人の災難を自分とは無関係なものとして眺めず、物資や労力を差し出して支えることの尊さを伝える故事成語です。
「患いを救い災いを分かつ」の使い方




「患いを救い災いを分かつ」の例文
- 町の人々は、洪水で家を失った家族のために、患いを救い災いを分かつ心で生活用品を持ち寄った。
- 病気で長く休んでいる友人を支えるには、患いを救い災いを分かつ姿勢が欠かせない。
- 地震の被災地へ食料と毛布を送る活動は、患いを救い災いを分かつ実践となった。
- 会社は火災に遭った取引先を、患いを救い災いを分かつ思いから援助した。
- 国境を越えた救援活動には、患いを救い災いを分かつ精神が表れている。
- 困った人を見過ごさず、患いを救い災いを分かつことを地域の合言葉にした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・塚本哲三編『春秋左氏伝 上』有朋堂書店、1926年。
・左丘明撰と伝わる『春秋左氏伝』成立年未詳。
・杜預注、孔穎達疏『春秋左伝正義』。
・Cambridge University Press, Cambridge Dictionary.
・HarperCollins Publishers, Collins English Dictionary.























