【ことわざ】
陰に居て枝を折る
【読み方】
かげにいてえだをおる
【意味】
恩を受けた人に、かえって害を加えることのたとえ。


【英語】
・bite the hand that feeds you.(自分を助けてくれる人にひどい仕打ちをする)
【類義語】
・恩を仇で返す(おんをあだでかえす)
・後足で砂をかける(あとあしですなをかける)
【対義語】
・仇を恩で報いる(あだをおんでむくいる)
「陰に居て枝を折る」の語源・由来
「陰に居て枝を折る」は、木が作ってくれた涼しい陰で休みながら、その木の枝を折ってしまうという情景をもとにしたことわざです。自分を守り、安らぎを与えてくれたものを、かえって傷つける姿を表しています。
ここでの「陰」は、人目につかない秘密の場所という意味ではなく、木に遮られ、日光や風雨の当たらない所を指します。木陰に入った人は、その木の枝や葉によって暑さを避け、休むことができます。
ところが、その恩恵を受けた人が枝を折れば、自分を守ってくれた木を傷つけることになります。この矛盾した行いを、世話になった人に害を加える人間の行動に重ねた表現です。
古い用例は、『夫木和歌抄(ふぼくわかしょう)』(1310年ごろ成立・鎌倉時代後期、藤原長清編)巻三十に収められた藤原為家の和歌に出てきます。そこには、「陰にゐて枝をおるにも成りぬべし軒ばの山をたのむ爪木は」とあります。
『夫木和歌抄』は、全三十六巻から成る私撰和歌集で、『万葉集』以後の家集・私撰集・歌合などから、一万七千首を超える和歌を集めています。四季と雑に分け、さらに多くの題目ごとに歌を分類した大規模な歌集です。
この歌を詠んだ藤原為家は、1198年から1275年まで生きた鎌倉時代の歌人です。藤原定家の子で、『続後撰和歌集(しょくごせんわかしゅう)』の単独の撰者となり、『続古今和歌集(しょくこきんわかしゅう)』の編集にも加わりました。
歌に出てくる「爪木(つまぎ)」は、薪にするための小枝や柴を指します。爪先で折り取った木に由来するという説と、木の端を表す「つま」に由来するという説があります。
為家の歌には、山から爪木を得ることと、「陰にゐて枝をおる」という行いが重ねられています。木の恵みに頼りながら、その枝を折るという姿には、恩を受けた相手を傷つける不義理がよく表れています。
古い用例では、「居て」は「ゐて」、「折る」は「おる」と仮名で書かれています。現在は「陰に居て枝を折る」という漢字交じりの形が一般的ですが、言葉の組み立てと意味は、鎌倉時代の用例からほとんど変わっていません。
このことわざには、特定の恩人を裏切った人物についての物語があるわけではありません。木陰で休み、その木の枝を折るという身近で分かりやすい行為そのものが、恩を仇で返す人の姿を象徴しています。
類義語の「恩を仇で返す」は、受けた親切に対して害を与えることを直接表します。一方、「陰に居て枝を折る」は、木に守られている最中にその木を傷つけるという具体的な情景によって、忘恩の行いを印象深く伝えます。
つまり、「陰に居て枝を折る」は、助けられた事実を忘れ、恩を与えてくれた相手や場所を自ら傷つけることへの戒めです。親切を受けたときには、その恩を当然と思わず、感謝と誠意をもって応えることの大切さを教えています。
「陰に居て枝を折る」の使い方




「陰に居て枝を折る」の例文
- 苦しい時期に雇ってくれた会社の秘密を売るとは、陰に居て枝を折る行いだ。
- 長く世話になった恩師を根拠のない話で傷つけるのは、陰に居て枝を折るに等しい。
- 村人に助けられたのに共同の井戸を壊した男は、陰に居て枝を折ると非難された。
- 親友に宿題を教えてもらった直後、その親友の悪口を広めるのは、陰に居て枝を折るようなものだ。
- 地域の支援で成長した店が、その地域に迷惑をかければ、陰に居て枝を折るとのそしりを免れない。
- 陰に居て枝を折ることのないよう、受けた親切を忘れず、困っている人には恩を返したい。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・Colin McIntosh編『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary Fourth Edition』Cambridge University Press,2013.
・藤原長清編『夫木和歌抄』1310年ごろ。























