【故事成語】
鼎足を折り公の餗を覆す
【読み方】
かなえあしをおりこうのこながきをくつがえす
【意味】
実力のない者を重い地位や大切な役目につけると、その任に耐えられず、大きな失敗を招くこと。特に、国や組織を危うくするような重大な人事の失敗をいう。


【英語】
・not up to the job.(その仕事を果たす力がない)
・beyond one’s capacity.(能力の限界を超えている)
【類義語】
・荷が勝つ(にがかつ)
・荷が重い(にがおもい)
・手に余る(てにあまる)
【対義語】
・適材適所(てきざいてきしょ)
「鼎足を折り公の餗を覆す」の故事
「鼎足を折り公の餗を覆す」は、中国の古典『易経(えききょう)』に由来する故事成語です。『易経』は中国五経の一つで、六十四卦によって自然と人生の変化の道理を説く書物です。
もとになる形は、『易経』第五十卦の「鼎(てい)」に出てくる爻辞(こうじ)です。そこには「九四:鼎折足,覆公餗,其形渥,凶」とあります。
この文は、「鼎の足が折れ、公の餗をひっくり返し、その身は恥にぬれる。凶である」という意味に受け取られます。ここでいう「鼎」は、古代中国で食べ物を煮るのに用いた金属製の器で、ふつう三本の脚をもち、王侯の祭器や礼器にもなりました。
「鼎足」は、本来、鼎の三本の足を指します。鼎は足で重い器と中身を支えるため、足が折れると中の料理を保てず、器全体が倒れてしまいます。
「公の餗」の「餗」は、鼎の中の食べ物を指す字です。日本語では「こなかき」と読み、羹(あつもの)に米の粉を混ぜて煮立てた料理、または雑炊を指す言葉としても説明されます。
この爻辞は、ただ器が倒れて料理がこぼれたという話ではありません。公のための大切な料理をのせた鼎の足が折れることは、重要な役目を支える者がその任に耐えられず、全体を失敗させるたとえです。
『易経』の「象伝」には、この句について「覆公餗,信如何也」とあります。これは、公の餗をひっくり返してしまった以上、まことにどうしようもない、という趣旨で、信頼を損なうほどの失敗を示しています。
さらに、『易経』の解説部分にあたる「繋辞下伝(けいじかでん)」は、この言葉の意味をはっきり述べています。「德薄而位尊,知小而謀大,力小而任重,鮮不及矣」とあり、徳が薄いのに地位が高く、知恵が小さいのに大事を企て、力が小さいのに重任を負えば、災いに及ばないことは少ない、という意味です。
同じ箇所では、そのあとに『易経』の「鼎折足,覆公餗,其形渥,凶」を引き、「言不勝其任也」と結びます。つまり、この言葉は「その任に勝えない」、すなわち重い役目を担うだけの力がないことをいうものです。
ここでいう失敗は、本人だけの失敗にとどまりません。鼎が倒れれば中の料理まで失われるように、重い地位にふさわしくない人が任務を負うと、国や組織、まわりの人々まで大きな損害を受けるという戒めになっています。
「鼎」は、古代中国では単なる鍋ではなく、王位や国家の重さを象徴する器としても受け取られました。そのため、鼎の足が折れて公の料理を覆すという表現は、政治や組織の根本が崩れるほどの重大な失敗を思わせます。
日本語では、「鼎足を折り公の餗を覆す」という形で、能力のない者を大臣などの重要な地位につけると、その任に耐えられず、国を乱し、王位までも危うくするという意味で用いられてきました。
現在では、政治上の大臣だけでなく、学校や会社などの大切な役割にも広げて使うことができます。ただし、日常会話ではかなり硬い表現なので、重大な役目と人選の失敗を強く戒めるときに用いる言葉です。
「鼎足を折り公の餗を覆す」の使い方




「鼎足を折り公の餗を覆す」の例文
- 経験のない者を責任者にしては、鼎足を折り公の餗を覆す結果になりかねない。
- 人柄だけで重要な役職を決めると、鼎足を折り公の餗を覆すおそれがある。
- 新しい制度を任せるなら、鼎足を折り公の餗を覆すことのないよう、能力をよく見極めるべきだ。
- 準備を知らない生徒を実行委員長に選べば、鼎足を折り公の餗を覆すことになる。
- 社長は、鼎足を折り公の餗を覆す失敗を避けるため、責任者の人選を慎重に進めた。
- 大事な交渉を不慣れな担当者だけに任せるのは、鼎足を折り公の餗を覆すようなものだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『小学館 故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『易経』。
・『繋辞伝』。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』Cambridge University Press.























