【故事成語】
管中に豹を見る
【読み方】
かんちゅうにひょうをみる
【意味】
見識が非常に狭く、物事の一部だけを見て全体を分かったように考えること。


【英語】
・not see the big picture.(全体像を見ていない)
【類義語】
・管窺蠡測(かんきれいそく)
・井蛙の見(せいあのけん)
・井の中の蛙(いのなかのかわず)
【対義語】
・見聞が広い(けんぶんがひろい)
・一斑を見て全豹を知る(いっぱんをみてぜんぴょうをしる)
「管中に豹を見る」の故事
「管中に豹を見る」は、中国の表現「管中窺豹」にもとづきます。管の中から豹を見ても、豹の体の一部分しか目に入らず、全体の姿は分からないというたとえです。
この言葉のもとになった話は、『世説新語(せせつしんご)』「方正」に出てきます。『世説新語』は、中国六朝時代の南朝宋で劉義慶が編んだ逸話集であり、後漢末から東晋にかけての名士たちの言行を集めた書物です。
同じ話は、唐の太宗の時代、648年に完成した正史『晋書(しんじょ)』の王羲之列伝にも関わるものとして伝わっています。『晋書』は、晋王朝一代の歴史を扱う中国の史書です。
話の中心人物は、東晋の書家である王献之です。王献之は字を子敬といい、名高い書家である王羲之の子として知られています。
王献之がまだ幼かったころ、父の門生たちが樗蒲(ちょぼ)という勝負事をしていました。王献之はその様子を見て、勝ち負けの形勢を読み取り、「南風不競」と言いました。
「南風不競」は、もとは南方の勢いがふるわないことを表す言葉です。この場面では、王献之が勝負の一方の形勢が悪いと見抜いて口にした言葉として使われています。
しかし、門生たちは王献之をまだ子どもだと思い、軽く見ました。そして、「此郎亦管中窺豹、時見一斑」と言いました。これは、「この坊ちゃんも、管の中から豹をのぞいて、たまたま一つの斑紋を見ただけだ」という意味です。
ここでいう「管」は、細いくだのことです。細いくだを通して大きな豹を見れば、豹の体全体ではなく、毛皮の斑紋の一つだけしか分かりません。
門生たちは、王献之が勝負の全体を理解したのではなく、たまたま一部分を見ただけだと言ってからかったのです。つまり、この言葉はもともと、見えている範囲が小さく、全体を十分に理解していないことを笑う言い方として出てきます。
王献之は、その言葉を聞いて怒り、目をいからせて言い返し、衣を払ってその場を去りました。この反応からも、門生たちの言葉が、幼い王献之の見識を軽んじる言い方であったことが分かります。
この故事から、「管中窺豹」は、のちに「見ているものが小さく、全体を得ていないこと」を表す故事成語として使われるようになりました。日本語では「管中に豹を見る」「管中より豹を窺う」「管中窺豹」などの形で理解されています。
同じ故事から、「一斑を見て全豹を知る」という表現も生まれました。こちらは、一部分を手がかりに全体を推しはかる意味で使われ、「管中に豹を見る」が表す狭い見方とは、使い方の重点が異なります。
したがって、「管中に豹を見る」は、ただ一部を見ることそのものではなく、一部だけを見て、全体を分かったように考える危うさを表します。広い視野を持ち、物事を全体から見る大切さを思い出させる故事成語です。
「管中に豹を見る」の使い方




「管中に豹を見る」の例文
- 一つの失敗だけで友人の努力を否定するのは、管中に豹を見るような判断だ。
- 短い紹介文だけで本全体をつまらないと決めるのは、管中に豹を見るに等しい。
- 地域の問題を一人の意見だけで語ると、管中に豹を見ることになりやすい。
- 商品の一部の機能だけを見て評価するのは、管中に豹を見る危うさがある。
- 旅行先の駅前だけを見て町全体を語るのは、管中に豹を見る態度だ。
- 管中に豹を見ることのないよう、資料を全体まで読んでから考えをまとめる。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本漢字能力検定協会編『漢検 漢字辞典 第二版』日本漢字能力検定協会、2014年。
・劉義慶『世説新語』南朝宋。
・房玄齢等撰『晋書』648年。
・教育部『成語典』2020年。
・Cambridge University Press, Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus.























