【ことわざ】
髪結い髪結わず
【読み方】
かみゆいかみゆわず
【意味】
他人のために自分の技術を使うことに忙しく、自分自身のことにまで手が回らないことのたとえ。


【英語】
・The shoemaker’s son always goes barefoot.(靴屋の息子はいつも裸足でいる)
【類義語】
・紺屋の白袴(こうやのしろばかま)
・駕籠舁き駕籠に乗らず(かごかきかごにのらず)
・大工の掘っ建て(だいくのほったて)
「髪結い髪結わず」の語源・由来
「髪結い髪結わず」は、髪結いが客の髪を美しく結うことに追われ、自分の髪は結わないままになっている姿を表したことわざです。その具体的な姿から、他人のためには専門の技術を使いながら、自分のことにまでは手が回らないという意味が生まれました。
「髪結い」とは、髪を結うこと、または髪を結うことを職業とする人を指します。現在の理容師や美容師につながる仕事ですが、もともとは日本の伝統的な髪形を整え、髷(まげ)を結い上げる職人でした。
中世以前には、一般の人々は自分や家族の手で髪を結うことが多く、専門の髪結い職人は、まだ広く定着していませんでした。室町時代後期になると、月代(さかやき)を剃り、髪を整えることを仕事とする人々が現れました。
江戸時代に入ると、男性の髪や月代を整える髪結いが、職業として定着しました。髪結い床と呼ばれる店を構える者のほか、道具を持って客のもとへ出向く者もおり、櫛(くし)、剃刀(かみそり)、元結(もとゆい)などを使って髪を整えました。
女性は江戸時代後期まで、自分で髪を結ったり、母や姉妹と互いに結い合ったりするのが一般的でした。しかし、髪形がしだいに華やかで技巧的になると、女性の髪を専門に結う女髪結いが現れました。
女髪結いは、江戸時代中期の安永年間、1772年から1781年ごろに登場したといわれています。当時流行した燈籠鬢(とうろうびん)などは、細かな技術を要する髪形で、専門の職人が客の注文に応じて結い上げました。
女髪結いの多くは、店で客を待つのではなく、櫛や元結などの道具を携えて顧客の家へ出向きました。客の髪を次々に整える仕事に追われれば、自分の髪を念入りに結う時間がなくなるという姿も、想像しやすくなります。
ただし、このことわざは、すべての髪結いが実際に髪を乱していたという意味ではありません。「人の髪は整えるのに、自分の髪は整えられない」という対照によって、専門家が自分自身を後回しにする様子を印象深く表したものです。
表現の前半にある「髪結い」は職業を表し、後半の「髪結わず」は、その職業の人が自分の髪を結わないことを表します。「髪」と「結う」を繰り返す短い形によって、仕事と自分自身の状態との食い違いが、すぐに伝わる言い方になっています。
同じ意味を表す形には、「髪結いの乱れ髪」があります。こちらは、客の髪を整える髪結い自身の髪が乱れているという情景を名詞の形で示し、「髪結い髪結わず」は、同じ内容を動きのある言い方で表しています。
日本のことわざには、職人や専門家が他人のために働きながら、自分のことを後回しにする姿を扱ったものが数多くあります。「紺屋の白袴」は、染物屋が自分の袴を染めず、「駕籠舁き駕籠に乗らず」は、駕籠を運ぶ人が自分では駕籠に乗らないことを表します。
「医者の不養生」も類義語ですが、意味にはわずかな違いがあります。「医者の不養生」は、正しいことを知りながら自分では実行しないという意味にも用いますが、「髪結い髪結わず」は、他人のために忙しく働くあまり、自分にまで手が回らないという点に重みがあります。
現在では、実際の髪結いに限らず、ウェブ制作者が自分のウェブサイトを直せない場合や、整理の専門家が自分の部屋を片づけられない場合などにも使えます。人のために能力を尽くしているうちに、自分のための同じ仕事が後回しになるという、少し皮肉で親しみのあることわざです。
「髪結い髪結わず」の使い方




「髪結い髪結わず」の例文
- 人気の美容師が自分の髪を何か月も整えていないとは、まさに髪結い髪結わずだ。
- ウェブ制作者でありながら自社のサイトを長年更新できず、髪結い髪結わずの状態になっている。
- 会計士の家計簿が領収書の山に埋もれているのは、髪結い髪結わずというほかない。
- 整理収納の専門家が忙しさのため自室を片づけられず、髪結い髪結わずになっていた。
- 多くの生徒の作文を丁寧に直していた先生は、自分の原稿が遅れて髪結い髪結わずとなった。
- 地域の人々の予定を調整することに追われ、自分の手続きを忘れるとは髪結い髪結わずだ。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館編『日本大百科全書』小学館、1984〜1994年。























