【ことわざ】
一寸の虫にも五分の魂
【読み方】
いっすんのむしにもごぶのたましい
【意味】
どんなに小さく弱い者にも、それ相応の命や意地、誇りがあるので、むやみに粗末にしたり、ばかにしたりしてはならないというたとえ。


【英語】
・Even a worm will turn.(虫けらでさえ向かってくる)
【類義語】
・小糠にも根性(こぬかにもこんじょう)
・蛞蝓にも角(なめくじにもつの)
・山椒は小粒でもぴりりと辛い(さんしょうはこつぶでもぴりりとからい)
「一寸の虫にも五分の魂」の語源・由来
「一寸の虫にも五分の魂」は、小さな虫を通して、弱いものを軽く扱ってはならないと教えることわざです。「一寸」はおよそ三センチメートル、「五分」はその半分に当たる長さを表します。文字どおりに読めば、小さな虫の体の半分ほども魂があるという大きな言い方になり、弱く見えるものの内側にも、軽く見てはならない命や心があることを強く示しています。
古い用例として重要なのは、『極楽寺殿御消息(ごくらくじどのごしょうそく)』(13世紀中ごろ成立、鎌倉時代、北条重時家訓)第四五条です。この書物は、鎌倉時代の武将北条重時が、武家としての心構えをかな文で説いた家訓です。康元元年から弘長元年ごろに成立し、九十八条から成る書物として伝わっています。
そこには、「たとへにも一寸のむしには、五分のたましゐとて、あやしの虫けらもいのちをはをしむ事我にたかふへからす」という一節が出てきます。これは、小さく取るに足りないように見える虫けらであっても、自分の命を惜しむことは人間と変わらない、という意味です。
この古い用例で中心になっているのは、まず「小さな命を粗末にしてはならない」という考えです。相手が弱いから、取るに足りないからといって、むやみに苦しめたり、軽く扱ったりしてはならないという慈しみの心が、言葉の土台にあります。
のちに、この言い方は命への慎みだけでなく、人を見下してはならないという意味へ広がりました。小さな虫にも命を惜しむ心があるという考えから、弱い立場の者にも思慮や意地、誇りがあるという教えへ、意味の重点が移っていったと考えられます。現在の意味では、相手の小ささや弱さではなく、その内側にある考えや意地を尊重することが大切になります。
近代の用例では、武者小路実篤『真理先生』(1949〜1950年・昭和24〜25年)に、「僕だって一寸の虫に五分の魂はある」という形が出てきます。ここでは、自分の立場が弱くても、自分なりの意地や誇りを失わないという意味で使われています。
このように、「一寸の虫にも五分の魂」は、中世の家訓に出てくる小さな命への思いやりから、弱い者にも意地や誇りがあるという戒めへ広がったことわざです。現在では、相手を侮る人への注意としても、自分の誇りを示す言葉としても使われます。ただし、人を「虫」にたとえる響きをもつため、相手を傷つける言い方にならないよう、場面を選んで用いることが大切です。
「一寸の虫にも五分の魂」の使い方




「一寸の虫にも五分の魂」の例文
- 一寸の虫にも五分の魂というように、年下だからといって相手の意見を軽く扱ってはならない。
- 小さな町工場だが、職人たちは一寸の虫にも五分の魂の気持ちで大企業に負けない製品を作った。
- 弱い立場の人をばかにする態度は、一寸の虫にも五分の魂という教えに反する。
- 一寸の虫にも五分の魂で、控え選手たちは最後まであきらめずに練習を続けた。
- 体の小さい弟をからかった兄は、母から一寸の虫にも五分の魂という言葉を教えられた。
- 一寸の虫にも五分の魂を忘れず、どんな相手にも敬意をもって接するべきだ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・北条重時『極楽寺殿御消息』13世紀中ごろ成立。
・武者小路実篤『真理先生』1949〜1950年。























