【ことわざ】
急ぎの文は静かに書け
【読み方】
いそぎのふみはしずかにかけ
【意味】
急ぎの手紙ほど大切な用件が多いので、書き誤りや書き漏らしのないよう、落ち着いて書くべきだという教え。


【英語】
・More haste, less speed(急ぐほど、かえって遅くなる)
・Haste makes waste(急ぎすぎると、失敗やむだを生む)
【類義語】
・急がば回れ(いそがばまわれ)
・急いては事をし損ずる(せいてはことをしそんずる)
【対義語】
・善は急げ(ぜんはいそげ)
・思い立ったが吉日(おもいたったがきちじつ)
「急ぎの文は静かに書け」の語源・由来
「急ぎの文は静かに書け」は、中国の古い故事に由来する表現ではなく、急いで大切な用件を伝える手紙の扱いから生まれた、日本のことわざです。急いでいるときほど、早く書くことよりも、誤りなく伝えることを重んじる教えを表します。
「文(ふみ)」は、ここでは手紙のことです。昔の手紙は、今のようにすぐ書き直したり、送ったあとで簡単に訂正したりできるものではなかったため、用件を正しく書くことがとても大切でした。
このことわざの中心には、「急ぎの手紙ほど大切な用件が多い」という考えがあります。急ぎの連絡には、時刻、場所、人数、約束、金額、返事の期限など、まちがえると困る情報が含まれやすいからです。
「静かに書け」の「静か」は、声を立てないという意味だけではありません。心を落ち着け、書き誤りや書き漏らしを防ぐように、慎重に書くという意味を含んでいます。
古い用例に関わる大切な書物として、『譬喩尽(たとえづくし)』があります。『譬喩尽』は、江戸時代後期の諺語辞典で、松葉軒東井(しょうようけん・とうせい)によって編まれ、天明6年、すなわち1786年に序があり、寛政11年、すなわち1799年ごろまで増補された八巻の書物です。
この『譬喩尽』には、「急ぎの文章(ふみ)は静かに書け」という形が出てきます。現在の見出しでは「文」と書く形が一般的ですが、古い例では「文章」を「ふみ」と読ませる形で表されていたことが分かります。
『譬喩尽』は、ことわざを中心に、詩歌、童謡、流行語、方言なども広く集め、いろは順に並べた書物です。その中にこの表現が収められていることから、江戸時代後期には、手紙を落ち着いて書くという教えが、暮らしの知恵として伝えられていたと考えられます。
もとの形にある「文章(ふみ)」は、現代の「文章」とは少し響きが異なります。ここでは、長い文章一般というより、人へ用件を届ける「手紙」の意味が前に出ており、現在の「急ぎの文」という形は、その意味を分かりやすく保った表記といえます。
このことわざは、手紙の作法だけを言っているのではありません。焦って書けば、字をまちがえたり、必要なことを書き落としたり、相手に誤解を与えたりしやすいという、人と人との連絡全体に通じる注意を含んでいます。
現在では、手紙だけでなく、メール、申込書、学校への連絡、仕事の依頼文などにも当てはまります。急ぐほど、まず心を静め、用件を確かめてから書くことが、結局は早く、正しく物事を進める道になります。
「急ぎの文は静かに書け」の使い方




「急ぎの文は静かに書け」の例文
- 欠席連絡をあわてて送る前に、急ぎの文は静かに書けを思い出して、日付と理由を確かめた。
- 大会の集合場所を知らせるメールは、急ぎの文は静かに書けの通り、地図のリンクまで見直した。
- 取引先への至急の返事ほど、急ぎの文は静かに書けを守り、名前と数量を確認する必要がある。
- 祖母へ病院の予約時刻を伝える手紙は大事な内容なので、急ぎの文は静かに書けに従って丁寧に書いた。
- 申込期限が近いからこそ、急ぎの文は静かに書けを心がけ、住所の抜けを防いだ。
- 急ぎの文は静かに書けというように、謝罪の文章は勢いで送らず、相手に誤解を与えない言葉を選ぶ。
主な参考文献
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・松葉軒東井編、宗政五十緒校訂『たとへづくし:譬喩尽』同朋舎出版、1979〜1981年。
・北嶋藤郷「英語・米語のことわざと日本の俚諺との比較について」『敬和学園大学研究紀要』第21号、2012年。
・Cambridge University Press『Cambridge English Dictionary』Cambridge University Press。
・Merriam-Webster『Merriam-Webster.com Dictionary』Merriam-Webster。























