【故事成語】
一言既に出ずれば駟馬も追い難し
【読み方】
いちごんすでにいずればしばもおいがたし
【意味】
一度口から出た言葉は、四頭立ての馬車で追っても取り返せないということ。言葉を慎むべきであるという戒め。


【英語】
・A word spoken is past recalling(口に出した言葉は取り戻せない)
【類義語】
・駟も舌に及ばず(しもしたにおよばず)
・駟馬も追う能わず(しばもおうあたわず)
・口は禍の門(くちはわざわいのかど)
「一言既に出ずれば駟馬も追い難し」の故事
この故事成語は、『論語』(春秋時代末から戦国時代ごろに成立した孔子と門人たちの言行録)の「顔淵」に出てくる「駟不及舌」という言葉をもとにしています。「駟」は四頭立ての馬車、またはその馬を指し、速く走るものの代表として用いられています。
もとの場面では、衛の大夫である棘子成が、「君子は質だけでよく、飾りはいらない」という趣旨のことを述べます。これに対して孔子の弟子である子貢は、その考え方を惜しみ、「駟不及舌」と言ってから、質と文は互いに離せないものだと反論します。
「駟不及舌」は、直訳すれば「四頭立ての馬車も舌に及ばない」という意味です。ここでの「舌」は、口から出る言葉を表しています。つまり、口にした言葉はたちまち相手に届き、どれほど速い馬車で追いかけても取り戻せない、という戒めを表しています。
この場面の子貢は、相手の発言そのものをただ叱っているのではありません。身分ある人が不用意にものを言えば、その発言は人に影響を与え、あとで取り消すことが難しくなります。そのため、子貢は「言葉は発する前に慎むべきものだ」という意味を、四頭立ての馬車という力強いたとえで示しています。
日本語では、この原典の言葉が「駟も舌に及ばず」「駟馬も追う能わず」などの形で受け入れられ、さらに「一言既に出ずれば駟馬も追い難し」という、意味をより分かりやすく広げた言い方として用いられるようになりました。どの形も、一度言った言葉は取り返せないという中心の意味を共有しています。
日本での古い用例としては、『小夜嵐物語』(1698年・江戸時代前期の浮世草子)に、「ふと物をいふとも、指合をくり思惟して云べし。一言すでに出れば、駟馬追がたしと云事あり」とあります。これは、思わず言葉を発する場合でも、差し支えがないかをよく考えてから言うべきだ、という文脈で使われています。
また、「駟も舌に及ばず」の形では、『菅家文草』(900年ごろ・平安時代前期、菅原道真著)に「三寸舌端駟不及」という漢詩文の用例が示されています。これは、短い舌先から出る言葉であっても、出てしまえば速い馬でも追いつけないという考えが、日本の漢詩文の中でも早くから知られていたことを示しています。
こうして、この故事成語は、中国古典の短い一句から、日本語の戒めの言葉へと広がりました。現在では、古代の馬車そのものを思い浮かべるよりも、発言、約束、書き込み、発表など、一度外に出した言葉が相手や社会に残ることへの注意として使うのが自然です。言葉を発する前に、相手を傷つけないか、事実に合っているか、責任を持てるかを考える大切さを伝える故事成語です。
「一言既に出ずれば駟馬も追い難し」の使い方




「一言既に出ずれば駟馬も追い難し」の例文
- 一言既に出ずれば駟馬も追い難しというから、腹が立っても相手を傷つける言葉は飲み込んだ。
- 会議での発言は記録に残るため、一言既に出ずれば駟馬も追い難しの気持ちで慎重に述べた。
- 友人の秘密を軽く話してしまい、一言既に出ずれば駟馬も追い難しを痛感した。
- 店の公式発表は多くの人に届くので、一言既に出ずれば駟馬も追い難しと考えて内容を確かめた。
- 一言既に出ずれば駟馬も追い難しだから、うわさを聞いただけで広めるのはよくない。
- 約束の言葉には責任が伴うため、一言既に出ずれば駟馬も追い難しという戒めを忘れてはならない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『論語』。
・菅原道真『菅家文草』900年ごろ。
・『小夜嵐物語』1698年。
・F. P. Wilson ed., 『The Oxford Dictionary of English Proverbs』Oxford University Press、1970年。























