【故事成語】
衣、新を経ずんば何に由りて故ならん
【読み方】
い、しんをへずんばなにによりてこならん
【意味】
どんなものでも、初めから古いものはなく、新しい時を経て初めて古くなるということ。


【英語】
・Everything has a beginning(すべての物事には始まりがある)
【類義語】
・物には始めあり終わりあり(ものにははじめありおわりあり)
「衣、新を経ずんば何に由りて故ならん」の故事
この故事成語は、中国の逸話集『世説新語(せせつしんご)』「賢媛(けんえん)」に出てくる話に由来します。『世説新語』は、南朝宋(なんちょうそう)の劉義慶(りゅうぎけい)に結びつけられて伝わる書物で、後漢末から東晋までの人物の言行や逸話を、三十六の部門に分けて集めています。
「賢媛」は、すぐれた女性の言葉やふるまいを集めた部門です。この言葉のもとになった話も、夫のこだわりを、妻が短い言葉でうまくほどいた場面として出てきます。
話に登場するのは、東晋の武将である桓沖(かんちゅう)です。原文では「桓車騎」と呼ばれており、車騎(しゃき)は官職名をふまえた呼び方です。
桓沖は、新しい衣服を着ることを好みませんでした。入浴のあと、妻はそのことを知りながら、あえて新しい衣服を用意して桓沖に届けさせました。
桓沖は大いに怒り、その新しい衣服を持ち去らせようとしました。新しい服を避ける気持ちが強く、ただ「古いものがよい」と思っていた様子がうかがえます。
しかし妻は、引き下がりませんでした。もう一度その衣服を持たせ、「衣不經新,何由而故?」、つまり、衣服が新しい時を経なければ、どうして古くなれるでしょうか、という意味の言葉を伝えさせました。
この一言は、桓沖の考えのすきまを突いています。桓沖は古い衣服を好みましたが、その古い衣服も、初めから古かったわけではなく、かつては新しかったはずなのです。
桓沖は、その言葉を聞いて大笑いし、結局その新しい衣服を着ました。妻の言葉は、相手を強く責めるのではなく、ものの道理を明るく示して、こだわりをやわらげる働きをしています。
この故事成語の「故」は、ここでは「古い」という意味で用いられています。「新を経る」とは、新しい段階を通ることを表し、古さは時間や使用を経て生まれる、という考えが言葉の中心にあります。
そのため、この故事成語は、単に「新しい服を着なさい」という話では終わりません。古いもの、慣れたもの、経験を積んだものにも、必ず初めの時があったという道理を示しています。
現在の使い方では、物だけでなく、人や経験にも広げて考えられます。長く使われた道具、歴史ある店、熟練した人、古くからの伝統も、最初は新しく、そこから時間と経験を重ねてきたものだという意味で用います。
この言葉は、新しいものをむやみに軽く見る考えをたしなめるときに役立ちます。始めたばかりの人や、できたばかりのものも、時を重ねれば価値や深みを持つようになる、という見方を教えてくれる故事成語です。
「衣、新を経ずんば何に由りて故ならん」の使い方




「衣、新を経ずんば何に由りて故ならん」の例文
- 創立したばかりのクラブを軽く見るのは早く、衣、新を経ずんば何に由りて故ならんというように、歴史はこれから作られる。
- 新しい革靴を履きにくいと嫌がっていたが、衣、新を経ずんば何に由りて故ならんで、履き続けてこそ足になじむ。
- 開店したばかりの店にも、衣、新を経ずんば何に由りて故ならんという通り、年月を重ねれば町の人に親しまれる日が来る。
- 一年生の演奏がぎこちないからといって笑うのはよくない。衣、新を経ずんば何に由りて故ならんで、上級生も初めは初心者だった。
- 新品のノートに書き始めるのをためらっていたが、衣、新を経ずんば何に由りて故ならんと思い、最初の一ページを丁寧に使った。
- 古い道具ばかりをありがたがる祖父に、父は衣、新を経ずんば何に由りて故ならんと言い、新しい道具も使い込めば味が出ると話した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・劉義慶撰、井波律子訳注『世説新語4』平凡社、2014年。
・劉義慶『世説新語』。























