【ことわざ】
孔雀は羽ゆえ人に捕らる
【読み方】
くじゃくははねゆえひとにとらる
【意味】
美点や優れた才能を持っているために、かえって災いや不幸を招くことのたとえ。


【英語】
・Every advantage has its disadvantage.(どの長所にも不利な面がある)
【類義語】
・薫は香を以て自ら焼く(くんはこうをもってみずからやく)
・芸は身の仇(げいはみのあだ)
【対義語】
・芸は身を助ける(げいはみをたすける)
「孔雀は羽ゆえ人に捕らる」の語源・由来
「孔雀は羽ゆえ人に捕らる」は、孔雀の美しい羽を、人の長所や才能に重ねたことわざです。孔雀の雄には、目玉のような模様を持つ長い上尾筒(じょうびとう)があり、それを扇のように広げる華やかな姿で知られています。このことわざでは、その美しさが人の目を引き、捕らえられる原因にもなると見立てています。
孔雀は日本に自然に分布する鳥ではなく、古くから海外よりもたらされた珍しい鳥でした。『日本書紀(にほんしょき)』(720年・奈良時代成立)には、推古天皇六年に当たる598年、新羅から孔雀一羽が贈られたという記録があります。江戸時代には、京都の四条河原などで見世物にもされ、美しい姿を人が捕らえて観賞する鳥という印象が広まりました。
このことわざには、「孔雀は羽故人に捕らる」「孔雀は羽ゆえ人に獲らる」「孔雀は羽故人に捕られ」などの形もあります。「故」は「ゆえ」を、「獲らる」と「捕らる」は、いずれも人に捕まえられることを表しており、言い回しや送り仮名に違いがあっても、意味の中心は変わりません。
また、「孔雀は羽故人に捕られ、麝香は臍より身を滅ぼす」と、麝香鹿(じゃこうじか)のたとえを続ける形も伝わっています。麝香鹿は、香料となる麝香を体内に持つため、人から狙われます。孔雀の羽と麝香鹿の香りを並べ、価値あるものを身に備えていることが、かえって身の危険を招くという教訓を強めた言い方です。
これとよく似た発想は、中国の古い思想書『劉子(りゅうし)』の「韜光(とうこう)」にも見られます。そこには「翠以羽自残」とあり、翠(すい:かわせみ)は美しい羽を持つために、自らを傷つける結果になると述べています。さらに、知恵を持つ亀、赤い色を含む丹砂、玉を抱く石も、それぞれの優れた性質のために人から利用され、身を損なうものとして並べています。
ただし、『劉子』に孔雀は登場せず、「孔雀は羽ゆえ人に捕らる」と同じ文章が書かれているわけでもありません。そのため、『劉子』の一節をこのことわざの直接の出典と断定することはできませんが、美しい羽が災いを招くという考え方が、古くから東アジアで語られてきたことは分かります。
同じ発想を表す言葉には、『漢書(かんじょ)』の故事に基づく「薫は香を以て自ら焼く」もあります。香りのよい草は、その香りを得るために焼かれることから、才能のある人が、その才能ゆえに身を滅ぼすことを表します。鳥の羽、香草の香り、麝香鹿の麝香という違いはあっても、優れた性質そのものが危険を引き寄せるという教訓は共通しています。
こうして、「孔雀は羽ゆえ人に捕らる」は、孔雀が美しい羽のために人から狙われるという具体的なたとえから、人の美点や才能が、ねたみ、酷使、悪用などを招く場合へと意味を広げました。単に長所にも欠点があるという意味ではなく、長所そのものが人の注意や欲を引き寄せ、持ち主の災いとなる場面を表すことわざです。
「孔雀は羽ゆえ人に捕らる」の使い方




「孔雀は羽ゆえ人に捕らる」の例文
- 計算が速い彼に急ぎの仕事ばかりが集まるのは、孔雀は羽ゆえ人に捕らるというものだ。
- 有名になった画家が悪質な商人に利用された一件は、孔雀は羽ゆえ人に捕らるの例といえる。
- 姉は人一倍頼りになるため、親戚中の面倒を任され、孔雀は羽ゆえ人に捕らる状態になった。
- 優れた技術を持つ職人ほど無理な注文を押しつけられるとは、孔雀は羽ゆえ人に捕らるだ。
- 彼女の美しい歌声が利益だけを求める人々を引き寄せ、孔雀は羽ゆえ人に捕らる結果となった。
- 豊かな知識を見込まれて何人分もの役目を背負った先生を見て、孔雀は羽ゆえ人に捕らるという言葉を思った。
主な参考文献
・臼田甚五郎監修『ことわざ辞典』日東書院、1995年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・『日本書紀』720年。
・班固『漢書』後漢時代成立。
・『劉子』「韜光」。























