【ことわざ】
暗闇の頬被り
【読み方】
くらやみのほおかむり
【意味】
無益なこと、無用なことのたとえ。


【類義語】
・月夜に提灯(つきよにちょうちん)
【対義語】
・転ばぬ先の杖(ころばぬさきのつえ)
「暗闇の頬被り」の語源・由来
「暗闇の頬被り」は、「暗闇」と「頬被り」という二つの言葉を組み合わせた表現です。暗闇では、何もしなくても人の顔はよく見えません。そのような場所で、さらに頬被りをして顔を隠しても、隠す効果はほとんど増えないため、役に立たない行為のたとえとなりました。
「頬被り」は、衣服や手拭いなどを頭から頬、あごにかけてかぶり、顔の一部を覆うことです。「ほおかぶり」「ほおかむり」の両方の読み方があり、「ほっかぶり」ともいいます。もともとは、寒さやほこりを防いだり、顔を人目から隠したりするための、具体的な身なりを表す言葉でした。
「頬被り」の古い形は、『文机談(ぶんきだん)』(13世紀後半・鎌倉時代、隆円著)に出てきます。そこには「見物のほうかぶりも申ける」とあり、見物する人が頭から布をかぶり、顔を覆う姿を表しています。この時代には、すでに「ほうかぶり」という形で、顔を覆う行為を表す言葉が使われていました。
幸若舞曲(こうわかまいきょく)の『景清(かげきよ)』(室町時代末期から近世初期)にも、「ちゃうけんのけさを以てほふかむりを仕り」とあります。ここでは、長絹の袈裟(けさ)を用いて顔を覆う行為を、「ほふかむり」と表しています。これらは「暗闇の頬被り」そのものの用例ではありませんが、このことわざを形づくる「頬被り」が、古くから実際に顔を隠す動作を指していたことを示しています。
頬被りは、明るい所や人目のある所で顔を隠すなら、目的にかなった行為です。しかし、初めから何も見えない暗闇の中では、顔を覆う必要がありません。この目的と手段の食い違いが、「しても意味がない」「手間をかけても何の役にも立たない」という教えにつながっています。
後には、「頬被り」だけで、知っているのに知らないふりをすることや、都合の悪い問題に関わらない態度を表すようにもなりました。ただし、「暗闇の頬被り」では、顔を布で覆うというもとの具体的な意味を基に、すでに隠れているものを重ねて隠すことの無益さを表しています。
このことわざには、「くらやみのほおかぶり」と読む形もあり、「暗がりの頬被り」ともいいます。「暗闇」も「暗がり」も、顔を隠すまでもなく相手から見えにくい場所を表すため、たとえの仕組みは同じです。
このように「暗闇の頬被り」は、必要な用心そのものを否定する言葉ではありません。すでに目的が果たされているのに同じ手段を重ねたり、実際には何の効果もない作業に手間をかけたりすることを戒めることわざです。
「暗闇の頬被り」の使い方




「暗闇の頬被り」の例文
- すでに閉鎖された無人の会場で、空席の取り合いを防ぐ札を配るのは暗闇の頬被りだ。
- 細かく裁断して文字の読めなくなった書類を、さらに一字ずつ黒く塗る作業は暗闇の頬被りに終わった。
- 中身のない空箱を盗まれまいと金庫へ納めるのは暗闇の頬被りである。
- 誰も通れないよう封鎖した廊下に、行列整理の係員を置く計画は暗闇の頬被りと批判された。
- 雨水の入らない屋内に置かれた空の水槽へ、雨よけを掛けるのは暗闇の頬被りだ。
- 消灯した無人の倉庫で、空の棚を人目から隠すため布を掛けても、暗闇の頬被りにすぎない。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・学研辞典編集部編『用例でわかる故事ことわざ辞典』学習研究社、2005年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・隆円『文机談』13世紀後半。
・幸若舞曲『景清』室町時代末期〜近世初期。























