【ことわざ】
車は海へ舟は山
【読み方】
くるまはうみへふねはやま
【意味】
物事が本来あるべき状態とは逆になっていることのたとえ。


【英語】
・Everything is topsy-turvy.(何もかもが逆さまで、秩序が乱れている)
【類義語】
・石が流れて木の葉が沈む(いしがながれてこのはがしずむ)
・牛は嘶き馬は哮え(うしはいななきうまはほえ)
「車は海へ舟は山」の語源・由来
車は陸上を進み、舟は水の上を進む乗り物です。ところが、このことわざでは、車を海へ、舟を山へ向かわせています。それぞれが本来の働きを果たせない場所へ移されるという、あり得ない取り合わせによって、物事が逆さまになった状態を表しています。
古い用例は、近松門左衛門の浄瑠璃(じょうるり)作品『卯月の潤色(うづきのいろあげ)』(1707年・江戸時代前期)に出てきます。この作品は、前年に上演された『卯月の紅葉(うづきのもみじ)』の続編で、心中によって妻のお亀を失い、一人生き残った与兵衛のその後を描いています。
物語では、お亀の霊が現れ、父の妾(めかけ)であるゐまと、その弟が行った悪事を明かします。お亀は、自分と与兵衛が夫婦となって家を継ぐはずだったのに、二人は下人(げにん)のように扱われ、ゐまとその弟が旦那顔(だんながお)をしていたと訴えます。
その中に、「くるまはうみへふねは山、皆さかさまの憂さつらさ」とあります。家を継ぐべき夫婦が低い立場に置かれ、本来は従う側の者が主人のように振る舞うという身分と役割の逆転を、海へ向かう車と山へ向かう舟になぞらえています。
この用例で大切なのは、単に物の上下や向きが反対になっているのではなく、人としての道理や、本来守られるべき関係まで逆になっている点です。「皆さかさま」と続けることで、車と舟の不釣り合いな行き先が、そのまま家の中における立場の乱れを表しています。
古い用例では「車は海へ舟は山」とあり、最後の「山」には「へ」が付きません。一方、「舟」を「船」と書き、末尾にも「へ」を加えた「車は海へ船は山へ」という形も使われます。表記や助詞に違いはありますが、車と舟の行き先を入れ替え、物事が逆さまになった状態を表す点は共通しています。
「車―海」と「舟―山」という二組の対照は、あるべき場所や役割が入れ替わった様子を、短く鮮やかに伝えます。現在も、人の立場、仕事の分担、物事の順序、善悪の扱いなどが、本来とは逆になっていることを批判的に表すことわざとして用いられます。
「車は海へ舟は山」の使い方




「車は海へ舟は山」の例文
- 子どもが親に勉強しなさいと命じ、親が黙って従うとは、車は海へ舟は山だ。
- 生徒が授業を進め、先生が後ろで私語をする教室は、車は海へ舟は山のようだった。
- 客がレジを打ち、店員が買い物かごを持って順番を待つのでは、車は海へ舟は山である。
- 部下が重要な決裁を下し、社長がその許可を待つ組織は、車は海へ舟は山だ。
- 反則した選手が表彰され、正々堂々と戦った選手が責められるなら、車は海へ舟は山というものだ。
- 救援物資を必要のない地域へ送り、被災地を後回しにするのは、車は海へ舟は山というほかない。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』全3巻、小学館、2006年。
・小学館大辞泉編集部編、松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・Diana Lea・Jennifer Bradbery編『Oxford Advanced Learner’s Dictionary, 10th Edition』Oxford University Press,2020.
・忠見慶造校訂、塚本哲三編輯『近松浄瑠璃集 上』有朋堂書店、1930年。
・近松門左衛門『あとおひ心中 卯月の潤色』1707年。























