【ことわざ】
苦しい時には親を出せ
【読み方】
くるしいときにはおやをだせ
【意味】
言い訳に困ったときには、親の病気などを持ち出し、親を口実にしてその場を切り抜けよということ。


【類義語】
・切ない時は親を出せ(せつないときはおやをだせ)
・叶わぬ時には親を出せ(かなわぬときにはおやをだせ)
「苦しい時には親を出せ」の語源・由来
「苦しい時」とは、心身が苦しいときではなく、断る理由や失敗の言い訳が見つからず、返答に困ったときを指します。「親を出す」も、親を実際にその場へ連れてくることではありません。親の病気や、親からの言いつけなどを話に持ち出し、自分の都合を通すための口実にするという意味です。
このことわざには、「切ない時は親を出せ」や「叶わぬ時は親を出せ」という言い方もあります。ここでいう「切ない」は、現在よく使われる、悲しくて胸が痛むという意味ではなく、「苦しい」「困った」という意味です。「叶わぬ時」は、思いどおりにならず、言い訳にも行き詰まったときを表しています。いずれも、親を引き合いに出して口実を作るという意味は共通しています。
古い用例は、歌舞伎の『名歌徳三舛玉垣(めいかのとくみますのたまがき)』(1801年・江戸時代後期、桜田治助ら作)に出てきます。この作品は、享和元年11月に江戸の河原崎座で初演されました。書名には、「名歌徳三升玉垣」とする別表記もあります。
その五立目には、「コレ、『せつない時は親を出せ』と言ふが、親の代りに子を出すとは」とあります。「困ったときには親を口実にするものだというのに、親ではなく子を持ち出すとは」という趣旨のせりふです。もとの言い方を逆にすることで笑いを生み出しているため、「せつない時は親を出せ」という表現が、当時の観客にも意味の通じる言葉であったことが分かります。
この江戸時代の用例では「切ない時」という形ですが、「切ない」が表しているのは、言い訳や対応に困った状態です。そのため、「苦しい時には親を出せ」という形に言い換えても、意味の中心は変わりません。また、「叶わぬ時には親を出せ」という言い方では、思いどおりに事を運べない状態が、よりはっきりと表されています。
言葉の形は「親を出せ」という命令になっていますが、親を口実にすることを正しい行いとしてすすめるだけの表現ではありません。都合が悪くなると、相手が強く問いただしにくい親の事情を持ち出して逃れようとする、人間のずるさを言い表すことわざでもあります。現在では、事実ではない親の用事や病気を言い訳にする人を、からかったり、たしなめたりする場面で用いるのがふさわしい表現です。
「苦しい時には親を出せ」の使い方




「苦しい時には親を出せ」の例文
- 約束を断るため、事実でもない父の用事を持ち出すとは、苦しい時には親を出せそのものだ。
- 彼は遅刻の理由を母の病気にしたが、苦しい時には親を出せという言い訳はすぐに見破られた。
- 責任を問われた担当者は、苦しい時には親を出せとばかりに、親の介護を口実にした。
- 友人からの誘いを断りきれず、苦しい時には親を出せで、父に外出を禁じられたことにした。
- 都合が悪くなるたびに親の言いつけを持ち出す彼の態度は、まさに苦しい時には親を出せだ。
- 苦しい時には親を出せで言い逃れをせず、約束を守れなかった理由を正直に話すべきだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・野島寿三郎編『歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典』日外アソシエーツ、1990年。
・桜田治助・村岡幸治・本屋宗七ほか『名歌徳三舛玉垣』小川半助、1801年。























