【故事成語】
刀折れ矢尽きる
【読み方】
かたなおれやつきる
【意味】
戦いに敗れてさんざんなありさまになること。また、力や手段を使い果たし、物事に立ち向かう方法がなくなること。


【英語】
・at the end of one’s rope.(力や忍耐が尽き、もう対処できない)
【類義語】
・弓折れ矢尽きる(ゆみおれやつきる)
・万事休す(ばんじきゅうす)
【対義語】
・余力を残す(よりょくをのこす)
・余裕綽綽(よゆうしゃくしゃく)
「刀折れ矢尽きる」の故事
「刀折れ矢尽きる」は、中国の史書『後漢書(ごかんじょ)』の「段熲伝」にもとづく表現です。『後漢書』は、後漢の歴史を記した二十四史の一つで、本紀十巻・列伝八十巻は南朝宋の范曄が撰し、432年に成立しました。
もとの話の舞台は、二世紀半ばの後漢の時代です。段熲(だんけい)は後漢の将軍で、中国北西部の民族である羌(きょう)との戦いに関わりました。
『後漢書』の「段熲伝」には、段熲が護羌校尉になった翌年の春、羌の軍勢が張掖(ちょうえき)を攻め、さらに同じ種族を集めて、夜明けに段熲の軍へ攻めかかったと記されています。張掖は中国甘粛省中部の地名で、漢代以来、交通上の重要な土地でした。
このとき段熲は馬から下り、激しく戦いました。『後漢書』には「熲下馬大戰,至日中,刀折矢盡,虜亦引退」とあり、正午ごろには刀が折れ、矢も尽きるほどの苦戦となったことを表します。
原典の場面では、段熲は武器が尽きるほど追い込まれますが、その奮戦を見て敵も退きます。つまり、もとの記述は、ただ負けた話ではなく、戦う手段がほとんどなくなるほど激しい戦いをした場面を描いています。
この「刀折矢盡」という形が、のちに日本語では「刀折れ矢尽きる」という言い方として受け止められました。刀と矢という具体的な武器が失われる姿から、戦う手段をすっかり使い果たす意味へ広がったのです。
現代の意味では、実際の戦争だけでなく、物事に立ち向かう方策がまったくなくなる場合にも使います。努力を続けても、資金、体力、時間、方法などが尽きて、それ以上進めなくなる状態を表します。
日本語の用例としては、徳富蘆花の『黒潮』(1902〜1905年・明治時代、徳富蘆花著)に「刀折れ矢竭きても」という形が出てきます。この用例では、刀も矢も尽きるほど追い詰められても、なお最後まで敵に勝利を許さないという、切迫した場面で用いられています。
また、宮沢俊義の『憲法講話』(1967年)には「刀折れ矢つきた状態」という用例があります。ここでは、すでに手段が尽き、それ以上がんばることができない状態を表しており、武力の場面から一般的な困難の場面へ意味が広がったことが分かります。
近い形に「弓折れ矢尽きる」があります。こちらも、戦いに負けることや、力も手段も尽きてどうしようもなくなることを表し、「刀折れ矢尽きる」と並んで、追い詰められた状態を表す言い方として用いられます。
このように、「刀折れ矢尽きる」は、戦場で武器を失うほどの苦戦から生まれた表現です。現在では、全力を尽くしても手立てがなくなることを、強い切迫感をもって表す言葉として定着しています。
「刀折れ矢尽きる」の使い方




「刀折れ矢尽きる」の例文
- 資金も人手も尽き、会社は刀折れ矢尽きる形で事業から撤退した。
- 決勝戦の終盤、主力選手が全員負傷し、チームは刀折れ矢尽きる状況に追い込まれた。
- 何度も交渉を重ねたが条件は折り合わず、代表者たちは刀折れ矢尽きる思いで席を立った。
- 災害後の復旧作業は続いたが、機材も燃料も不足し、現場は刀折れ矢尽きる寸前だった。
- 研究班は考えられる方法をすべて試し、刀折れ矢尽きるところまで調査を続けた。
- 家族でできる手続きはすべて終え、刀折れ矢尽きる前に専門家へ相談することにした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・范曄『後漢書』432年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。























