【故事成語】
苛政は虎よりも猛し
【読み方】
かせいはとらよりもたけし
【意味】
苛酷な政治が人々に与える害は、虎に襲われる害よりもひどいということ。悪政を戒める言葉。


【英語】
・tyranny is more terrible than a tiger.(圧政は虎よりも恐ろしい)
・oppressive government is fiercer than a tiger.(人を苦しめる政治は虎よりも恐ろしい)
【類義語】
・苛政猛虎(かせいもうこ)
・虐政(ぎゃくせい)
・暴政(ぼうせい)
【対義語】
・善政(ぜんせい)
・仁政(じんせい)
「苛政は虎よりも猛し」の故事
「苛政は虎よりも猛し」は、中国古典『礼記(らいき)』「檀弓(だんぐう)・下」に出てくる、孔子の言葉に基づく故事成語です。『礼記』は、前漢時代の経書で、戦国時代から秦・漢時代にかけての礼に関する説を集めた書物です。
「苛政」の「苛」は、きびしい、むごいという意味をもつ字です。「苛政」は、厳しすぎる政治、残酷できびしい政治を指し、民を苦しめる政治のあり方を表します。
故事の舞台は、山東省にある泰山(たいざん)のふもとです。孔子がそこを通りかかると、ある婦人が墓の前で、たいへん悲しそうに泣いていました。
孔子はその泣き声を聞き、弟子に事情をたずねさせます。弟子が「あなたの泣き方は、何度も深い悲しみに遭った人のようです」とたずねると、婦人はその理由を語りました。
婦人は、以前に夫の父が虎に襲われて亡くなり、夫もまた同じように虎に襲われて亡くなり、今度は自分の子も虎に襲われて死んだのだと答えます。家族を三代にわたって虎に奪われた、たいへん悲しい話です。
そこで孔子は、「どうしてこの土地を去らないのですか」とたずねます。すると婦人は、「ここには苛政がないからです」と答えました。
この答えには、虎のいる危険な土地であっても、苛酷な政治の行われる土地よりはましだ、という意味があります。人を直接襲う虎よりも、日々の暮らしを苦しめる悪い政治のほうが、人々にとって深い害をもたらすことを示しています。
孔子は弟子たちに向かって、「小子識之、苛政猛於虎也」と言いました。これは「諸君、覚えておきなさい。苛酷な政治は虎よりも恐ろしいのだ」という意味です。
この一節の「苛政猛於虎也」が、日本語では「苛政は虎よりも猛し」と読まれるようになりました。「猛し」は、勢いが強く、荒々しく、恐ろしいことを表します。
この故事で大切なのは、虎の恐ろしさを語ることではありません。孔子は、政治が人々の生活を守るものでなければ、自然の災いよりも重い苦しみになると教えています。
日本語の古い用例としては、室町時代中期ごろの辞書『文明本節用集』に、「悪政が人民に与える害は、虎の害よりもはなはだしい」という意味で出ています。これにより、この表現が早くから、漢籍の故事に基づく戒めの言葉として受け入れられていたことが分かります。
近代以後にも、この言葉は政治や社会のあり方を批判する文脈で用いられました。徳富蘇峰『将来之日本』(1886年・明治時代)や正宗白鳥『人間嫌い』(1949年・昭和時代)にも用例があり、悪政の害を強く言い表す言葉として使われています。
現在の「苛政は虎よりも猛し」は、単に昔の政治を語る言葉ではありません。人々を守るはずの政治や権力が、人々を苦しめるものになってはならないという、今にも通じる戒めを表す故事成語です。
「苛政は虎よりも猛し」の使い方




「苛政は虎よりも猛し」の例文
- 重い税で農民が暮らせなくなった歴史を読むと、苛政は虎よりも猛しという言葉が思い浮かぶ。
- 民の声を聞かず、罰ばかりを重くする政治には、苛政は虎よりも猛しという戒めが当てはまる。
- 国を治める者は、苛政は虎よりも猛しという故事成語を忘れてはならない。
- 人々が危険な土地を離れようとしなかった理由を知り、苛政は虎よりも猛しの意味がよく分かった。
- 苛政は虎よりも猛しとは、悪い政治が日々の生活をどれほど苦しめるかを教える言葉だ。
- 歴史の授業で専制的な支配について学び、苛政は虎よりも猛しという言葉の重みを感じた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・戴聖編『礼記』前漢時代。
・小学館国語辞典編集部編『デジタル大辞泉』小学館。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』
・Merriam-Webster『Merriam-Webster Dictionary.』























