【ことわざ】
頭の黒い鼠
【読み方】
あたまのくろいねずみ
【意味】
家の中や身近な場所で物がなくなったとき、それを盗んだ人間をねずみにたとえていう言葉。外から来た者ではなく、内部にいる人のしわざだとほのめかす表現。


【英語】
・an inside job(内部の人による犯行・盗み)
【類義語】
・家賊(かぞく)
・鼠賊(そぞく)
【対義語】
・正直者(しょうじきもの)
・清廉潔白(せいれんけっぱく)
「頭の黒い鼠」の語源・由来
「頭の黒い鼠」は、家の中の物をかすめ取る鼠の姿を、人間の盗みに重ねた表現です。「頭の黒い」は人間の頭髪を指し、ただの鼠ではなく、人間を鼠になぞらえていることを示します。物がなくなったときに、犯人は鼠ではなく身近な人間ではないかと、直接名指しせずにほのめかす言い方です。
古い用例として、『大坂独吟集(おおざかどくぎんしゅう)』(1675年・江戸時代前期、西山宗因判)に「あたまのくろい鼠」という形が出てきます。『大坂独吟集』は、西山宗因判の諸家独吟百韻(しょかどくぎんひゃくいん)十巻で、延宝3年に刊行され、談林(だんりん)の俳諧(はいかい)の特色をよく伝える書物です。
この用例では、「ときどきかよひたらんこそこそ はらますはあたまのくろい鼠すら」という形で出てきます。鼠という小さくすばしこい動物に、人間であることを示す「頭の黒い」を添えることで、こっそり物を取る人を軽くからかいながら指す言い方になっています。
その後、『世間胸算用(せけんむねさんよう)』(1692年・江戸時代前期、井原西鶴作)にも、現在の意味に近い用例が出てきます。『世間胸算用』は、浮世草子(うきよぞうし)で、大晦日の町人たちの出来事を描く作品です。
同書の巻一「鼠の文づかひ」では、屋根裏から金の包みが見つかり、周囲の人は鼠のしわざだと考えます。しかし老母は、そんな遠くまで歩く鼠を見たことがないとして、「頭の黒い鼠の業」と言い、人間のしわざではないかと疑います。
この場面のおもしろさは、老母が「本物の鼠ではなく、人間がしたのだろう」と疑うところにあります。つまり「頭の黒い鼠」は、物がなくなった理由を、動物の鼠ではなく、身近な人の盗みに結びつけて考える言葉として使われています。
近代以後にも、このことわざは文学作品の中で使われました。坂口安吾の『屋根裏の犯人』(1953年)には、遠くまで歩く鼠など聞いたことがないとして、頭の黒い鼠が引いたのだろうと疑う場面があり、身近な人間の盗みをほのめかす言葉として定着していたことが分かります。
このように、「頭の黒い鼠」は、家の中を荒らす鼠の具体的な姿から出発し、そこに人間の頭髪を示す「頭の黒い」を重ねて、内部にいる盗み手を指すことわざとして定着しました。直接「盗人」と言い切らず、比喩でやわらかく、しかし鋭く疑いを示すところに、このことわざの特徴があります。
「頭の黒い鼠」の使い方




「頭の黒い鼠」の例文
- 戸棚にしまった菓子が毎晩少しずつ減り、家族は頭の黒い鼠の仕業だと考えた。
- 部室の募金箱から小銭が消え、外部の侵入がないため頭の黒い鼠を疑った。
- 会社の備品が倉庫からなくなり、管理者は頭の黒い鼠がいると見て記録を付け始めた。
- 祖母の財布から紙幣が抜き取られ、親戚の間で頭の黒い鼠の話が出た。
- 店の売り上げが合わない日が続き、店長は頭の黒い鼠を警戒した。
- 台所のつまみ食いを本物の鼠のせいにしていたが、母は頭の黒い鼠だと見抜いた。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢字ペディア』。
・西山宗因判『大坂独吟集』村上平楽寺、1675年。
・井原西鶴『世間胸算用』1692年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary』。























