【ことわざ】
穴の狢を値段する
【読み方】
あなのむじなをねだんする
【意味】
まだ手に入れていないものを、もう自分のものになったように考え、あてにならないことをあてにして先走る愚かさのたとえ。


【英語】
・Don’t count your chickens before they are hatched.(卵がかえる前にひよこの数を数えるな)
・Catch the bear before you sell its skin.(皮を売る前に熊を捕らえよ)
【類義語】
・取らぬ狸の皮算用(とらぬたぬきのかわざんよう)
・飛ぶ鳥の献立(とぶとりのこんだて)
・沖な物あて(おきなものあて)
「穴の狢を値段する」の語源・由来
「穴の狢を値段する」は、まだ穴の中にいる狢を捕まえてもいないのに、売ればいくらになるかを考える、という場面から生まれたことわざです。狢(むじな)は、もとはアナグマの別名として使われ、また毛色が似ていることからタヌキと混同されることもありました。穴に住む、捕まえにくい野生の動物を相手にしているからこそ、「まだ手に入っていないものを当てにする」という意味がよく表れています。
このことわざの中心には、「値段する」という言い方があります。「値段」は売買されるときの金額を指し、「直」という字にも「あたい・ねだん」という意味があります。古い表現では、今の「値段」に近い意味で「直(あたい)」が使われることがあり、「穴の狢を値段する」は、目の前にないものへ勝手に値をつける行為を表しているといえます。
江戸時代の妖怪画集『百器徒然袋(ひゃっきつれづれぶくろ)』(天明4年・1784年春原刊、鳥山石燕画。文化2年・1805年後刷本)には、「袋貉(ふくろむじな)」という項があり、そこに「穴の貉の直をする」とあります。これは、穴の中の狢の値を考えることを「覚束なきこと」、つまりはっきりせず当てにならないことのたとえとして述べたものです。
この古い形では、「値段する」ではなく「直をする」という言い方が用いられています。意味の芯は同じで、まだ捕まえていない狢を、まるで手に入れた物のように扱い、値打ちを見積もるということです。そこから、不確かな利益や成功を先に喜ぶ人間の軽はずみさを、少しこっけいにたしなめる言葉として定着しました。
よく似た表現に「取らぬ狸の皮算用」があります。こちらも、まだ捕まえていない狸の皮を売ることを考え、その金を当てにするという意味です。狸の皮は、蹈鞴(たたら)や鞴(ふいご)などに使われ、かつては金になるものと考えられましたが、狸は簡単には捕まらない動物として語られてきました。
「取らぬ狸の皮算用」と「穴の狢を値段する」は、どちらも「まだ得ていない獲物を、もう得たもののように考える」という発想をもっています。後の解説では、「取らぬ狸の皮算用」が「穴の貉を値段する」を言い換えたものではないかという説もありますが、いずれにしても、現在ではどちらも、不確かなものを当てにして先走ることを戒める表現として理解されています。
このことわざは、ただ「期待してはいけない」と言っているのではありません。努力して成功を願うことは大切ですが、結果がまだ出ていないうちから、それを当然のものとして計画を立てると、失敗したときに困ることがあります。「穴の狢を値段する」は、物事は手に入ってから落ち着いて考えなさい、という生活の知恵を、狩りの場面にたとえて伝えているのです。
「穴の狢を値段する」の使い方




「穴の狢を値段する」の例文
- 契約書に判を押してもらう前から売上を計算するのは、穴の狢を値段するようなものだ。
- まだ試合に勝っていないのに優勝旅行の話をするのは、穴の狢を値段する行為だ。
- 抽選結果も出ていない宝くじの当選金で家を買う計画を立てるとは、まさに穴の狢を値段することだ。
- 面接の結果を待たずに初任給の使い道だけ考えるのは、穴の狢を値段するに近い。
- 助成金が通るか分からない段階で高価な機材を注文するのは、穴の狢を値段する危うさがある。
- まだ畑の作物が実っていないのに収入を見込んで借金を増やすのは、穴の狢を値段する考え方だ。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・鳥山石燕豊房画『百鬼徒然袋 3巻』長野屋勘吉、1805年。























