【ことわざ】
狐と狸の化かし合い
【読み方】
きつねとたぬきのばかしあい
【意味】
悪賢い者同士が、互いに相手をだまそうとして駆け引きをすることのたとえ。


【類義語】
・狐と狸(きつねとたぬき)
「狐と狸の化かし合い」の語源・由来
「狐と狸の化かし合い」の背景には、狐も狸も人の姿に変わったり、人の目を惑わせたりするという、日本に古くから伝わる考えがあります。そのため、両者を並べた「狐と狸」という言い方だけでも、互いに油断ならないくせ者同士を指します。
狸に類する動物が人に化ける記録は、奈良時代に成立した『日本書紀(にほんしょき)』(720年、舎人親王編)に、すでに出てきます。推古天皇三十五年、すなわち627年の条には、陸奥国(みちのくのくに)で狢(むじな)が人に化け、歌を歌ったとあります。「狢」は狸や穴熊を指すことのある呼び名で、この一節は、狸に類する動物が人に化ける古い例として知られています。
狐が人の姿を取る話は、『日本霊異記(にほんりょういき)』(822年ごろ・平安時代初期、景戒編)の上巻第二にもあります。美濃国の男が美しい女性を妻に迎えて子をもうけますが、妻は犬に追われたときに狐の姿へ戻り、垣の上へ逃げます。それでも男は妻を忘れず、再び訪ねてくるように呼びかけました。
これらは、狐と狸が直接争う話ではありませんが、両方の動物に人へ化ける力があるという考えが、古代から語られていたことを示しています。やがて各地の昔話では、狐と狸が互いの化ける力を競い、相手をだまそうとする物語も語られるようになりました。
『因伯民談』4巻3号(1938年・昭和13年)に記録された鳥取県の話では、狐が狸に化け比べを持ちかけます。狐は、本物の殿の行列を自分が化けて見せたものだと狸に思わせ、感心した狸が大坊主へ化けたところを、行列の武士に斬らせました。狐は、自分で大行列に化けるのではなく、本物を利用して狸をだましています。
『旅と伝説』12巻9号(1939年・昭和14年)に収められた佐賀県の昔話では、狐と狸が化かし合いを始めます。狸が化ける番に犬を連れた猟師が現れ、狐は狸の変身だと思って油断しますが、猟師は本物だったため、撃たれてしまいました。こちらでは狐がだまされる側となっており、化け上手な者でも、相手や状況を読み違えれば失敗することを表しています。
昭和14年の邦字新聞『伯剌西爾時報』では、旧仮名遣いの「狐と狸の化かし合ひ」が見出しに使われています。昭和初期には、狐と狸が実際に化け比べをする話だけでなく、人間同士の抜け目のない駆け引きを表す言い方としても定着していました。
橘外男の小説『グリュックスブルグ王室異聞』(昭和29年)では、互いに素性を隠した二人の女性が相手の本心を探るやり取りを、「狐と狸の化かし合い問答」と表しています。ここでは狐と狸は登場せず、双方が正体や思惑を隠して探り合う場面の比喩として使われています。
このように、狐と狸が人を惑わせるという古い伝承から、両者が化ける力を競う昔話が生まれ、さらに人間同士の悪賢い駆け引きへと意味が広がりました。現在の「狐と狸の化かし合い」は、どちらも信用しにくく、互いに相手をだまして利益を得ようとする状況を、二匹の化け物同士の争いにたとえたことわざです。
「狐と狸の化かし合い」の使い方




「狐と狸の化かし合い」の例文
- 偽物の絵を売りつけようとした男が偽札を渡され、狐と狸の化かし合いとなった。
- 互いに不利な条件を隠して契約を結ばせようとする交渉は、狐と狸の化かし合いそのものだった。
- 二人の詐欺師がありもしないもうけ話を持ち寄る姿は、狐と狸の化かし合いにしか見えなかった。
- 両社が数字を都合よく示して相手から譲歩を引き出そうとし、会議は狐と狸の化かし合いの様相を呈した。
- 双方が偽の手掛かりを流して相手を陥れようとする物語は、狐と狸の化かし合いを思わせる。
- 財産を隠す親族と、借金があるふりをする相続人との話し合いは、狐と狸の化かし合いになった。
主な参考文献
・小学館『デジタル大辞泉』。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・舎人親王編『日本書紀』720年。
・景戒『日本霊異記』822年ごろ。
・田中新次郎「樹木に関する因伯の民談(四)」『因伯民談』4巻3号、鳥取郷土会、1938年。
・野口隆「佐賀県昔話第五話」『旅と伝説』12巻9号、三元社、1939年。
・『伯剌西爾時報』1939年10月4日。
・橘外男『グリュックスブルグ王室異聞』1954年。























