【故事成語】
詠雪の才
【読み方】
えいせつのさい
【意味】
文才のある女性をほめたたえる言葉。


【類義語】
・柳絮の才(りゅうじょのさい)
「詠雪の才」の故事
「詠雪の才」は、中国の東晋(とうしん)に生きた謝道韞(しゃどううん)が、降る雪を美しい言葉でたとえ、その文才を称賛された故事にもとづきます。「詠雪」は雪を題材に詩的な言葉を作ることを、「才」は文学的な才能を表します。
この出来事は、『世説新語(せせつしんご)』の「言語」に出てきます。『世説新語』は、5世紀ごろの中国・南朝宋で劉義慶が編んだ逸話集で、後漢末から東晋末までの貴族や文人などの言動を集めた書物です。
ある雪の日、東晋の政治家であった謝安(しゃあん)は、一族の若者たちを家に集め、文章や古典について語り合っていました。『世説新語』には、「謝太傅寒雪日内集、与児女講論文義」とあり、雪の日に家族が集まり、文学を論じていたことが分かります。
しばらくすると、雪が急に激しく降り始めました。謝安は喜びながら、「白い雪がしきりに降っている。この様子は何に似ているだろう」と、集まった若者たちに問いかけました。
まず、甥の謝朗が、「塩を空中にまいた様子になら、いくらか似ています」と答えました。細かな塩の粒が散る様子に、白い雪をなぞらえたのです。
すると、姪の謝道韞は、「未若柳絮因風起」と答えました。これは「風に乗って舞い上がる柳絮には及びません」という意味で、降りしきる雪を、風に舞う柳の綿毛にたとえた言葉です。
柳絮(りゅうじょ)とは、白い綿毛のついた柳の種子、または、その種子が春の風に乗って飛び漂う様子を指します。白く軽い綿毛が空中を舞う姿は、ふわふわと降る雪によく似ています。
塩のたとえは、雪の白さや細かな粒を表していますが、柳絮のたとえには、雪が風に吹かれて軽やかに舞う動きまで含まれています。謝安は謝道韞の答えを聞いて大いに喜び、その即興の比喩を高く評価しました。
『世説新語』は、この女性が謝安の兄である謝奕(しゃえき)の娘で、後に王凝之(おうぎょうし)の妻となった人物であることも記しています。短い答えの中で雪景色を鮮やかに表したことから、謝道韞は、すぐれた才女の代表として知られるようになりました。
この話は、唐の房玄齢らが編纂し、648年に完成した正史『晋書(しんじょ)』の「列女伝・王凝之妻謝氏」にも記されています。『晋書』は西晋と東晋の歴史を扱う書物で、謝道韞について「聡識有才弁」、すなわち、聡明で物事を理解する力があり、才能と弁舌にすぐれていたと述べています。
『晋書』では、雪のたとえのほかにも、謝道韞が古典の名句について的確に答えたことや、議論に窮した王献之を助け、客人を言い負かしたことなどが語られています。また、彼女が作った詩・賦・誄・頌も、世に伝わっていたと記しています。
日本でも、柳絮を雪にたとえる表現は、早くから漢詩に取り入れられました。『懐風藻(かいふうそう)』(751年・奈良時代)に収められた文武天皇の「詠雪」には、「林中若柳絮」とあり、林の中に降る雪を柳絮に見立てています。
『世説新語』や『晋書』の本文には、「詠雪の才」という固定した形そのものではなく、そのもとになった雪の日の逸話が記されています。後に、この故事が「雪を詠んですぐれた才能を示した女性」という形にまとめられ、「詠雪の才」と呼ばれるようになりました。
また、謝道韞が雪にたとえたものに注目し、「柳絮の才」ともいいます。現在では、謝道韞のように言葉を巧みに選び、すぐれた詩や文章を作る女性をほめる故事成語として用いられています。
「詠雪の才」の使い方




「詠雪の才」の例文
- 彼女の詩は言葉選びが巧みで、幼いころから詠雪の才を認められていた。
- 新人作家の短編を読んだ編集者は、その詠雪の才を高く評価した。
- 姉は季節の移ろいを美しい文章で描き、詠雪の才に恵まれている。
- 作文コンクールで最優秀賞を得た少女は、詠雪の才をもつ書き手として注目された。
- 古典の教師は、即興で見事な詩を作った生徒の詠雪の才を称賛した。
- その随筆家は、日常の小さな出来事を鮮やかに描く詠雪の才の持ち主だった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・劉義慶撰、井波律子訳注『世説新語1』平凡社、2013年。
・房玄齢ら撰『晋書』648年。
・江口孝夫全訳注『懐風藻』講談社、2000年。























