【ことわざ】
一行失すれば百行共に傾く
【読み方】
いっこうしっすればはっこうともにかたむく
【意味】
一つでも行いに過ちがあると、それまで積み重ねた多くの善行まで損なわれるということ。


【類義語】
・百日の説法屁一つ(ひゃくにちのせっぽうへひとつ)
「一行失すれば百行共に傾く」の語源・由来
「一行失すれば百行共に傾く」は、一つの行いに欠けたところがあると、多くのよい行いまで価値を失ってしまう、という戒めのことわざです。「一行」はここでは「一つの行い」を表し、「傾く」は、それまで保たれていた評価や信頼がぐらつく様子を比喩的に表します。
古い漢語の形では、『明心寶鑑(めいしんほうかん)』に、太公の言葉として「一行有失百行俱傾」とあります。一つの行いに失うところがあれば、多くの行い全体がともに傾くという意味を、短く力強い形で表しています。
近い考え方は、唐代の女訓書として伝わる『女論語』にも出てきます。そこには「一行有失,百行無成」とあり、言葉や行いを慎む文脈の中で、一つの失いが多くの徳を成り立たなくするという見方が示されています。
江戸時代になると、岡島冠山の『唐話纂要(とうわさんよう)』にも、この考え方が中国語の語句・格言を学ぶ材料として取り上げられました。『唐話纂要』は、唐話、つまり中国語の語句や格言、会話文とその和訳を記した語学書で、享保元年(一七一六)に刊行され、享保三年(一七一八)の本も伝わっています。
『唐話纂要』の「常言」では、中国語の「一行有失百行俱傾」に対して、和訳にあたる形として「一行失有レハ。百行俱ニ傾ク」が並びます。この段階で、「有失」は「失有レハ」、のちの「失すれば」へ、「俱傾」は「共に傾く」へと、日本語のことわざとして受け取りやすい形になっていきました。
現在の「一行失すれば百行共に傾く」は、特定の昔話や一人の人物の逸話を語る言葉ではなく、日々の行いを慎むための教訓として使われます。一つの不正、一度のごまかし、一回の重大な不注意が、それまで積み上げた善行や信用まで損ねてしまうという、厳しくも大切な教えを伝えています。
「一行失すれば百行共に傾く」の使い方




「一行失すれば百行共に傾く」の例文
- 店の売り上げをごまかせば、一行失すれば百行共に傾くで、長年の信用まで失われる。
- 委員会でまじめに働いてきた生徒でも、一度の不正があれば一行失すれば百行共に傾く。
- 小さな約束を軽く見ると、一行失すれば百行共に傾くように、友人からの信頼がゆらぐ。
- 会社の安全点検で手抜きをすれば、一行失すれば百行共に傾く結果になりかねない。
- 地域のために活動してきた人でも、寄付金の扱いを誤れば一行失すれば百行共に傾く。
- 研究発表の資料で一か所でも事実を偽れば、一行失すれば百行共に傾くと受け止められる。
主な参考文献
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・岡島冠山『唐話纂要』1716年刊、1718年重刊。
・高橋強「岡島冠山著『唐話纂要』の『常言』訳文に関する一考察」『創大中国論集』第23号、2020年。
・『明心寶鑑』。
・宋若華著、宋若昭注『女論語』。























