【故事成語】
一天万乗の君
【読み方】
いってんばんじょうのきみ
【意味】
天下を治める天子、または大きな国を治める君主のこと。


【英語】
・sovereign ruler(最高権力をもつ君主)
【類義語】
・一天万乗(いってんばんじょう)
・万乗の君(ばんじょうのきみ)
・天子(てんし)
【対義語】
・臣下(しんか)
「一天万乗の君」の故事
「一天万乗の君」は、「一天」「万乗」「君」という三つの部分から成る表現です。「一天」は、もとは空全体を表しますが、転じて「全国」「全世界」という意味にも用いられます。「万乗」は一万台の兵車を表し、「君」は君主を指します。そのため、この表現全体では、天下を治めるほどの力をもつ君主、という重い意味になります。
「万乗」の考え方は、古代中国の政治制度を背景にしています。「乗」は、車、または車を数える単位で、中国の周の制度では、戦時に天子の直轄領から兵車一万台を出すことができると考えられました。そこから、「万乗」は、単なる車の数ではなく、天子や大国の君主の大きな権力を表す言葉になりました。
中国の古典『孟子』(もうし)(戦国時代、孟軻の思想を伝える書物)にも、「萬乘之君」という形が出てきます。『孟子』「公孫丑上」では、北宮黝という人物の勇気を述べる場面で、「萬乘之君」に対しても屈しない、という趣旨の言葉が使われています。ここでの「萬乘之君」は、非常に大きな力をもつ君主を指す表現です。
同じ『孟子』には、「萬乘之國」という言い方も出てきます。これは、一万台の兵車を出せるほどの大国を表します。「万乗」は、君主そのものを指す場合と、大国の規模を指す場合の両方で使われ、いずれも古代中国における政治的な大きさを示す言葉として働いています。
日本では、この「万乗」の言い方が、天皇を表す尊い称にも用いられました。「万乗の君」は、天下を治める君主、天子を指し、十四世紀後半ごろの『太平記』にも用例が伝わります。また、「万乗」は、日本で天皇の称として用いられ、「一天万乗の君」「万乗の位」などの形が使われました。
「一天万乗」という形は、江戸時代の『十善法語』(じゅうぜんほうご)(1775年ごろ、慈雲尊者飲光著)にも用例があります。この書物は、十善戒の意味や功徳を説いた法語で、そこでは、「一天万乗の主」という形が使われています。ここでは、国を治める者の位や責任の大きさを示す言葉として働いています。
このように、「一天万乗の君」は、古代中国の「万乗」という制度的な言い方をもとにしながら、日本では、天子・天皇・大国の君主を敬っていう表現として受け入れられました。現在では、日常会話で多く使う言葉ではありませんが、歴史や古典の文脈では、ただ「王」や「君主」と言うよりも、天下を治めるほどの重みと威厳をこめて述べる故事成語です。
「一天万乗の君」の使い方




「一天万乗の君」の例文
- 古い軍記物語では、天皇を一天万乗の君として敬う表現が用いられることがある。
- 臣下たちは、一天万乗の君の命を受けて、都の守りを固めた。
- 歴史の授業で、一天万乗の君という言葉が天子を重々しく表すことを学んだ。
- その文章では、一天万乗の君に背くことの重大さが、強い調子で述べられている。
- 一天万乗の君という表現には、天下を治める君主への敬意がこめられている。
- 古典を読むときは、一天万乗の君が単なる王ではなく、最高の君主を指す言葉だと考える必要がある。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・小学館『日本大百科全書』小学館、1994年。
・『孟子』。
・慈雲尊者飲光『十善法語』1775年ごろ。























