【ことわざ】
金で面を張る
【読み方】
かねでつらをはる
【意味】
金銭の力で相手を圧倒し、屈服させること。


【英語】
・money talks.(お金が強い影響力をもつ)
【類義語】
・札束で頰を張る(さつたばでほおをはる)
・小判で面張る(こばんでつらはる)
・金の轡を食ます(かねのくつわをはます)
「金で面を張る」の語源・由来
「金で面を張る」の「金」は、金属としての金ではなく、金銭・お金を指します。「面」は顔を、「張る」は顔を平手で打つことを表し、もとは「顔をたたく」という具体的な動作に根ざした言い方です。
「面を張る」という言い方は、顔面をたたく意味で用いられました。古い用例として、歌舞伎『兵根元曾我』(1697年・江戸時代前期)に「己が面(つら)をはった」とあり、ここでは実際に顔をたたく行為を表しています。
この具体的な動作に金銭の力が結びつくと、「お金で顔をたたくように相手を圧する」という比喩になります。相手の考えや気持ちを尊重せず、金の力で押し切るという、強い批判的なニュアンスをもつ表現です。
これに近い形の古い用例として、『傾城色三味線』(1701年・江戸時代前期、江島其磧作)に「小判で頬(ツラ)はるなり」とあります。この作品は遊里と遊女を描いた浮世草子であり、「小判で面張る」という形が、金の威力で相手を圧倒する言い方として早くから使われていたことを示しています。
ここでいう「小判」は、江戸時代に用いられた金貨です。金銭そのものを相手の顔に当てるように見立てることで、単にお金を払うだけでなく、相手の意志を押さえつける乱暴さまでも表しています。
現在の形に近い用例としては、浄瑠璃『仮名手本忠臣蔵』(1748年・江戸時代中期、二代目竹田出雲・三好松洛・並木千柳作)の三段目に「金で頬(ツラ)はる算用に」とあります。『仮名手本忠臣蔵』は、赤穂事件を背景にした人形浄瑠璃の代表作で、江戸時代の人々に広く親しまれました。
この用例では、「頬」と書いて「ツラ」と読ませています。現在は「金で面を張る」と書くのが一般的ですが、「頬」も「面」も顔を表しており、金銭で相手の顔を打つように圧するという比喩の骨組みは同じです。
また、『関取千両幟』(1767年・江戸時代中期、近松半二・三好松洛・竹本三郎兵衛ら合作)も、この表現と結びつく浄瑠璃として伝わります。この作品は人気力士を題材にした世話物であり、金銭と義理、人の意地がからむ場面を描く江戸時代の浄瑠璃文化の中には、この言い方が通じやすい土台がありました。
「金で面を張る」は、単に金を払うことをいう表現ではありません。金銭を差し出して助ける場合や、正当な報酬を払う場合にはふつう使わず、相手の反対や誇りを金の力で押しつぶすような場合に用います。
そのため、このことわざには、お金の力の強さを認めながらも、それによって人を従わせるやり方への戒めが含まれています。顔をたたくという乱暴な行為をたとえに用いることで、金銭で人を支配することの失礼さや冷たさを強く印象づける表現となっています。
「金で面を張る」の使い方




「金で面を張る」の例文
- 会社が多額の寄付をちらつかせて反対意見を封じようとするのは、金で面を張るやり方だ。
- 困っている相手に条件を押しつけて金を渡すなら、金で面を張ることになりかねない。
- 彼は札束を見せれば何でも通ると思っており、その態度はまさに金で面を張るものだった。
- 地域の意見を聞かず、補助金だけで計画を進めようとすれば、金で面を張ると受け取られる。
- 正当な報酬を払うことと、金で面を張ることとはまったく違う。
- 友人を助けるつもりでも、見返りを迫れば金で面を張るような印象を与える。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・集英社辞典編集部編『会話で使えることわざ辞典』集英社、1989年。
・江島其磧『傾城色三味線』1701年。
・竹田出雲・三好松洛・並木千柳『仮名手本忠臣蔵』1748年。
・近松半二・三好松洛ほか『関取千両幟』1767年。
・Merriam-Webster, Merriam-Webster.com Dictionary, “money talks.”























