【故事成語】
韓信の股くぐり
【読み方】
かんしんのまたくぐり
【意味】
大きな志をもつ者は、目先の小さな恥や屈辱に耐え、つまらない争いを避けるべきだというたとえ。


【英語】
・swallow one’s pride.(恥を忍ぶ)
・endure humiliation.(屈辱に耐える)
【類義語】
・隠忍自重(いんにんじちょう)
・成らぬ堪忍するが堪忍(ならぬかんにんするがかんにん)
・臥薪嘗胆(がしんしょうたん)
【対義語】
・血気の勇(けっきのゆう)
・匹夫の勇(ひっぷのゆう)
「韓信の股くぐり」の故事
「韓信の股くぐり」は、中国前漢の歴史家である司馬遷が著した『史記』(しき)「淮陰侯列伝」にもとづく故事成語です。『史記』は、前91年ごろに完成したと考えられる中国最初の正史で、人物の伝記を重んじる紀伝体の史書です。
韓信(かんしん)は、漢の高祖劉邦に仕えた武将です。淮陰の人で、のちに大将となり、趙・魏・燕・斉を滅ぼし、項羽を攻めて漢の天下統一に大きな功績をあげました。
しかし、若いころの韓信は貧しく、まだ世に知られていませんでした。『史記』「淮陰侯列伝」には、韓信が人に食を頼ることも多く、人々から嫌がられることがあったと記されています。
そのころ、淮陰の市場に、韓信を侮る若者がいました。その若者は、韓信が体も大きく、剣を好んで帯びているのに、心の中は臆病だとからかいました。
若者は人々の前で韓信をさらに辱め、「死ぬ勇気があるなら自分を刺せ。死ぬ勇気がないなら、自分の股の下をくぐれ」と迫りました。この言葉は、韓信に乱暴な争いを選ぶか、大きな恥を受け入れるかを迫るものでした。
韓信は、その若者をじっと見つめたあと、身をかがめて股の下をくぐり、腹ばいになって通りました。市場にいた人々はみな韓信を笑い、臆病者だと思ったと記されています。
ここで大切なのは、韓信が本当に臆病だったから股をくぐったのではないという点です。目の前の侮辱に怒って相手を殺せば、つまらない争いで自分の将来を失うことになります。
のちに韓信は、劉邦のもとで才能を認められ、大将として活躍しました。『史記』には、蕭何が韓信を「国士無双」と評し、劉邦に重く用いるよう勧めた場面も出てきます。
さらに後年、韓信が楚王となって故郷へ帰ったとき、自分を辱めた若者を呼び出し、楚の中尉に取り立てました。韓信は、あのとき自分が相手を殺すことができなかったわけではなく、殺す名分がなかったので耐えたのだと語っています。
この後日談によって、若いころの股くぐりは、単なる屈辱ではなく、大きな目的のために小さな怒りを抑えた行動として受け止められるようになりました。だから「韓信の股くぐり」は、大志をもつ者が目先の恥に耐えることのたとえになったのです。
日本語では、「韓信の股くぐり」という形で、つまらない争いに勝つよりも、大きな目的を守るために耐えることをいう言葉として用いられます。恥を受けても、そこで終わりではなく、その先の成長や成功を見すえて行動することを教える故事成語です。
「韓信の股くぐり」の使い方




「韓信の股くぐり」の例文
- 彼は失礼な言葉を受けても、韓信の股くぐりと思って大事な交渉を続けた。
- 大会で負けて笑われたが、韓信の股くぐりの気持ちで練習を重ねた。
- 新人のころの苦しい扱いにも、彼女は韓信の股くぐりと考えて実力を磨いた。
- 目先のけんかに勝つより、韓信の股くぐりとして大きな目標を守るほうがよい。
- 友人にからかわれても、健太は韓信の股くぐりと受け止め、発表の準備に集中した。
- 一時の恥をこらえて学び続ける姿勢は、まさに韓信の股くぐりである。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・司馬遷『史記』前91年ごろ。
・Cambridge University Press, 『Cambridge Dictionary.』
・HarperCollins Publishers, 『Collins COBUILD Advanced Learner’s Dictionary.』























