【故事成語】
苦言は薬なり、甘言は疾なり
【読み方】
くげんはくすりなり、かんげんはやまいなり
【意味】
耳に痛い忠告は自分を正す薬となるが、気に入られるための甘い言葉は人を損なう病のもとになるということ。


【類義語】
・良薬は口に苦し(りょうやくはくちににがし)
・忠言耳に逆らう(ちゅうげんみみにさからう)
「苦言は薬なり、甘言は疾なり」の故事
「苦言は薬なり、甘言は疾なり」は、中国の歴史書『史記(しき)』(前漢、紀元前1世紀ごろ、司馬遷編)の「商君列伝」に出てくる言葉です。『史記』は、伝説上の黄帝から前漢の武帝の時代までを記した全百三十巻の歴史書で、後の中国の歴史書の手本となりました。
この言葉を述べたのは、戦国時代の秦(しん)で国政改革を進めた商鞅(しょうおう)です。商鞅は孝公(こうこう)に仕えて厳格な法を定め、秦を強国へ導きましたが、その厳しい政治によって、王族や有力者から多くの恨みを受けていました。
商鞅が秦の政治を担って十年ほどたったころ、趙良(ちょうりょう)という人物が訪ねてきました。商鞅は趙良と親しく交わりたいと申し出ましたが、趙良はすぐには応じず、まず自分の考えを率直に語りました。
趙良は、「千人の者が口をそろえて従うよりも、一人の人物が恐れずに正しいことを述べるほうが尊い」と説きました。そして、周の武王は率直な意見を聞いたために栄え、殷の紂王は人々が黙り込んだために滅びたと述べたうえで、処罰を恐れず、一日中でも正しい意見を言ってよいかと商鞅に尋ねました。
これに対して、商鞅は「貌言、華也。至言、実也。苦言、薬也。甘言、疾也」と答えました。うわべを飾る言葉は花のようなもの、道理を尽くした言葉は実のあるもの、耳に痛い言葉は薬となり、甘い言葉は病となるという意味です。
ここでいう「苦言」は、ただ相手を傷つける厳しい言葉ではありません。相手の過ちを正し、将来のためになるよう、あえて良くない点を指摘する言葉を指します。一方の「甘言」は、相手の気分をよくして取り入るための、口当たりのよい言葉です。
また、「疾(やまい)」は、病気やわずらいを表す漢字です。甘言は、聞いたときには心地よくても、自分の欠点に気づく機会を失わせ、思い上がりや判断の誤りを招くため、人を内側から損なう病にたとえられています。
商鞅は趙良に、本当に正しいことを語ってくれるなら、その言葉は自分にとって薬になると述べました。そこで趙良は、秦の名臣として敬われた百里奚の政治と商鞅の政治とを比べ、商鞅が民を顧みず、厳しい刑罰によって恨みを集めていることを正面から批判しました。
趙良はさらに、商鞅の身は朝露のように危ういと警告しました。領地や権力への執着を捨て、賢い人物を登用し、老人や孤児をいたわり、徳を尊ぶ政治へ改めるよう勧めたのです。しかし、商鞅はこの苦言に従いませんでした。
その五か月後、孝公が亡くなると、商鞅は反対勢力から反逆の疑いをかけられました。逃亡中に宿へ泊まろうとしたものの、身分を証明できない者を泊めれば処罰するという、商鞅自身が定めた法のために断られ、最後は捕らえられて命を落としました。
商鞅は、苦言を薬と呼びながら、実際には趙良の忠告を受け入れることができませんでした。この結末は、ためになる忠告の価値を知っているだけでは足りず、自分にとって都合の悪い内容にも耳を傾けなければならないことを示しています。
日本では、室町時代中期の辞書『文明本節用集(ぶんめいぼんせつようしゅう)』に、「苦言薬也、甘言病也」という形が出てきます。原典の「疾」が、同じく「やまい」を意味する「病」に置き換わっており、現在も「苦言は薬なり、甘言は病なり」という形が広く使われています。
したがって、「苦言は薬なり、甘言は疾なり」は、耳当たりのよい言葉ばかりを喜ばず、自分を正してくれる率直な忠告を大切にすべきだという戒めです。同時に、相手に忠告するときには、悪口ではなく、その人のためになる誠実な言葉で伝えることの大切さも表しています。
「苦言は薬なり、甘言は疾なり」の使い方




「苦言は薬なり、甘言は疾なり」の例文
- 先生の厳しい指摘を受け、苦言は薬なり、甘言は疾なりと考えて発表原稿を直した。
- 父は、苦言は薬なり、甘言は疾なりという教えを胸に、家族の率直な意見を聞き入れた。
- 友人の忠告は耳に痛かったが、苦言は薬なり、甘言は疾なりと思えば腹も立たなかった。
- 社長は、苦言は薬なり、甘言は疾なりとして、賛成意見だけでなく反対意見も求めた。
- 選手たちは、苦言は薬なり、甘言は疾なりを忘れず、監督から指摘された弱点の克服に励んだ。
- 周囲のお世辞に惑わされぬよう、彼は苦言は薬なり、甘言は疾なりという言葉を戒めとした。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・中田祝夫『文明本節用集研究並びに索引』風間書房、1970年。
・司馬遷『史記』「商君列伝」前漢。























