【ことわざ】
借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔
【読み方】
かりるときのじぞうがお、かえすときのえんまがお
【意味】
金や物を借りるときはにこにこしている人が、返すときには不機嫌な顔をするというたとえ。貸し借りにかかわる人間の身勝手な心理を表す。


【類義語】
・金の貸し借りは不和の基(かねのかしかりはふわのもと)
・借りる時の恵比寿顔返す時の閻魔顔(かりるときのえびすがおかえすときのえんまがお)
「借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔」の語源・由来
「借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔」は、金や物を借りるときと返すときの表情の違いを、地蔵と閻魔にたとえたことわざです。地蔵顔は、地蔵菩薩の像から思い浮かべる、丸く柔和でにこやかな顔を表します。
一方、閻魔顔は、閻魔王のようなおそろしい顔を表します。借りるときは穏やかに頼むのに、返す段になると渋い顔や不愉快な顔になるという対照が、このことわざの骨組みです。
古い形では、「返す時」ではなく「済す時」といいます。「済す」は、ここでは返済する、返却するという意味で使われる言葉です。
「借時の地蔵顔なす時の閻魔顔」という形は、金銭などを借りるときはにこにこした人が、返済するときは渋い顔をすることのたとえとして伝わっています。現在の「返す時の閻魔顔」は、その意味を分かりやすくした言い方です。
古い用例として、『虎明本狂言(とらあきらぼんきょうげん)』の「胸突」(室町時代末期から近世初期)に「あど道すがらかる時のぢざうがほになす時のゑんまがほと申」とあります。これは、道すがら「借りる時は地蔵顔、返す時は閻魔顔という」と述べる場面で、すでにこの対比が定まった言い回しとして使われていたことを示します。
この用例では、「ぢざうがほ」「ゑんまがほ」という旧い表記が用いられています。現代の説明では「地蔵顔」「閻魔顔」と書きますが、もとの表記には、当時の仮名遣いが残っています。
後の資料では、上方のいろはかるたにも採られたことわざとして知られます。いろはかるたは、短い言葉で世の中の教訓や人情を伝えるものなので、このことわざも庶民の暮らしの中で覚えやすい形に整えられていきました。
また、歌舞伎の『傾城反魂香(けいせいはんごんこう)』に出る言葉としても伝えられています。『傾城反魂香』は、宝永5年(一七〇八)ごろ、江戸時代中期に大坂の竹本座で人形浄瑠璃として初演された、近松門左衛門作の時代物です。
『傾城反魂香』は、その後、歌舞伎にも移され、現在は「土佐将監閑居(とさのしょうげんかんきょ)の場」がよく上演されます。絵師の又平と女房おとくを中心に、夫婦の思いや芸への願いを描く場面として知られています。
このことわざは、単に表情の違いをおもしろく言っただけではありません。金品を借りるときには相手に頼らざるを得ないため愛想よくふるまい、返すときには惜しさや負担が表情に出てしまう、という人間の心理を鋭く突いています。
「地蔵顔」と「閻魔顔」の取り合わせは、やさしさとこわさ、にこやかさと不機嫌さをはっきり対比させます。そのため、貸し借りによって人間関係がぎくしゃくしやすいことを、短く印象深く伝えることができます。
現在では、「借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔」と「借りる時の地蔵顔、済す時の閻魔顔」の両方の形で用いられます。意味の中心はどちらも同じで、借りるときだけ都合よく愛想よくし、返すときに不満そうにする身勝手さへの戒めです。
「借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔」の使い方




「借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔」の例文
- お金を頼みに来たときは笑顔だったのに、返済日になると不機嫌になり、まさに借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔だった。
- 友人はノートを借りるときだけ愛想がよく、返すときには面倒そうにするので、借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔と思われても仕方がない。
- 道具を借りるなら、借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔にならないよう、最後まで礼儀を守るべきだ。
- 兄はゲームを借りるときは優しい口調だったが、返す話になると急に怒り顔になり、借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔そのものだった。
- 会社で備品を借りる際に、借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔にならぬよう、返却時にも丁寧に対応した。
- 近所づきあいでは、借りる時の地蔵顔、返す時の閻魔顔のような態度が信用を失わせる。
主な参考文献
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・公益財団法人日本漢字能力検定協会『漢検 漢字ペディア』。
・近松門左衛門『傾城反魂香』1708年ごろ。
・独立行政法人日本芸術文化振興会『文化デジタルライブラリー 歌舞伎事典』。























