【ことわざ】
亀の年を鶴が羨む
【読み方】
かめのとしをつるがうらやむ
【意味】
十分に恵まれている者でも、さらに多くを望むように、人の欲望には限りがないというたとえ。


【英語】
・The more you get, the more you want.(得れば得るほど、さらに欲しくなる)
【類義語】
・千石を取れば万石を羨む(せんごくをとればまんごくをうらやむ)
・隴を得て蜀を望む(ろうをえてしょくをのぞむ)
【対義語】
・知足(ちそく)
「亀の年を鶴が羨む」の語源・由来
「亀の年を鶴が羨む」は、「鶴は千年、亀は万年」という、鶴と亀を長寿の象徴とする言い方を土台にしています。ここでいう「年」は、年齢そのものではなく、千年、万年に及ぶと考えられた寿命を指します。
鶴が千年生きるという考えは、中国の古い伝承にさかのぼります。『淮南子(えなんじ)』(前漢、紀元前2世紀、劉安編)の「説林訓(せつりんくん)」には、「鶴寿千歳、以極其遊」とあります。鶴は千年の寿命を保ち、その長い生涯を十分に楽しむという意味です。
その直後には、朝に生まれて夕方には死ぬカゲロウも、短い生涯の楽しみを尽くすと続きます。この一節そのものは、欲深さを戒めた話ではなく、生涯の長短が異なっても、それぞれが自分の生を送ることを述べたものです。
一方、亀が万年生きるという伝承は、南朝梁の任昉の名で伝わる『述異記(じゅついき)』(6世紀ごろ)などに出てきます。そこには、亀は千年で毛が生え、五千年生きるものを神亀、万年生きるものを霊亀と呼ぶと記されています。
こうした中国の長寿伝説を背景として、鶴と亀は、日本でも一組のめでたい動物として受け入れられました。「鶴は千年、亀は万年」は、長寿を祝う言葉として、祝い事や縁起を担ぐ場面に広く用いられてきました。
鎌倉時代後期に成立したとされる『童子教(どうじきょう)』には、「亀鶴之契」という言い方が出てきます。鶴と亀の長寿にあやかり、千年、万年にも及ぶ永い契りを表したもので、中世にはすでに、両者が長久の象徴として結び付けられていました。
「鶴は千年、亀は万年」は、中世から近世にかけて、大晦日や節分に家々を回った厄払いの決まり文句にも用いられました。樋口一葉の『別れ霜』(明治25年)にも「鶴千年亀万年」という形があり、長生きや変わらぬ繁栄を願う言葉として定着していたことが分かります。
「亀の年を鶴が羨む」は、このめでたい寿命の差を、欲深さへの皮肉に変えたことわざです。千年も生きる鶴は、すでに十分な長寿を授かっているのに、それでも自分の十倍に当たる、亀の万年を羨ましがります。
「亀を羨む」ではなく、「亀の年を羨む」と表すところにも特徴があります。鶴が欲しがっているのは亀そのものではなく、自分より長い寿命であり、恵まれた者がさらに上のものを求める姿が、具体的に示されています。
したがって、単に他人を羨ましく思うことだけを表す言葉ではありません。一つの望みがかなっても満足せず、次はもっと大きな富、地位、名誉などを欲しがる、際限のない欲望を戒めるときに用います。
すでに得たものの価値を忘れ、持っていないものばかりに目を向ければ、どれほど恵まれても、心は満たされません。「亀の年を鶴が羨む」は、欲には終わりがないことを、長寿の象徴である鶴と亀を通して教えることわざです。
「亀の年を鶴が羨む」の使い方




「亀の年を鶴が羨む」の例文
- 十分な財産を持ちながら、なお人の富を欲しがる姿は、亀の年を鶴が羨むというものだ。
- 一度昇進するとすぐに次の地位を求める彼を、上司は亀の年を鶴が羨むと戒めた。
- 広い家を建てたばかりなのに、隣の邸宅を羨ましがるとは、亀の年を鶴が羨むような話だ。
- 大会で準優勝したことを喜ばず、賞品の少なさに不満を言うのは、亀の年を鶴が羨むに等しい。
- 亀の年を鶴が羨むというように、欲望のままに求め続けても、心から満足することは難しい。
- 会社が大きな利益を上げても、経営者はさらに多くを望み、亀の年を鶴が羨む状態に陥った。
主な参考文献
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・劉安編『淮南子』前漢、紀元前2世紀。
・任昉撰と伝わる『述異記』6世紀ごろ。
・『童子教』鎌倉時代後期成立。
・樋口一葉『別れ霜』1892年。























