【ことわざ】
癇癪持ちの事破り
【読み方】
かんしゃくもちのことやぶり
【意味】
短気で怒りやすい人は、少しのことで腹を立て、まとまりかけた話や計画を壊してしまうということ。


【英語】
・let one’s temper get the better of one.(怒りに負けて自制できなくなる)
・lose one’s temper.(かっとなって怒り出す)
【類義語】
・短気は損気(たんきはそんき)
・短慮功を成さず(たんりょこうをなさず)
【対義語】
・堪忍五両(かんにんごりょう)
「癇癪持ちの事破り」の語源・由来
「癇癪持ちの事破り」は、特定の中国の故事から出た表現ではなく、「癇癪持ち」と「事破り」を組み合わせて、短気な人が物事を壊してしまうありさまを戒めることわざです。ここでいう「癇癪持ち」はよく癇癪を起こす人、「事破り」は物事を破ること、つまり話や計画をだめにすることとして理解できます。
「癇癪」は、ちょっとしたことにも激しく怒りやすい性質、またはその怒りの発作を表す言葉です。古い用例として、『月花余情(げっかよじょう)』(1746年・江戸時代中期、献笑閣主人作)には、「辛気、肝癪(カンシャク)、則亡国之音」という形が出てきます。
この『月花余情』は、大坂島之内の遊里の情景を描いた洒落本です。くだけた会話文体が定着しようとする時期の作品であり、「肝癪」という表記から、のちの「癇癪」に通じる怒りっぽさを表す言葉が、江戸時代の俗語的な文章にも使われていたことが分かります。
「癇癪持ち」という形にも、江戸時代の俳諧に古い用例があります。『暁台先生発句集(きょうたいせんせいほっくしゅう)』(1809年・江戸時代後期、暁台著、臥央編)には、「はるの雨肝積持をなだめけり」という句があり、怒りやすい人をなだめる情景が詠まれています。
一方、「事破」は「ことやぶり」と読み、約束や規則を破ることを意味します。『栄花物語(えいがものがたり)』(1028〜1092年ごろ成立、平安時代の歴史物語)には、「ことやぶりにおはしませ」という古い用例があり、定められたことを守らない意味で使われています。
この古い「事破」は、もともと約束や規則を破る意味がはっきりしています。ことわざの「事破り」では、その「破る」という考えが広がり、まとまりかけた相談、準備中の計画、続けるべき仕事などを、怒りで壊してしまう意味へつながっています。
「癇癪持ちの事破り」は、単に「怒る人がいる」というだけの表現ではありません。怒りやすい性質のために、人と人との話し合いや、せっかく進んでいた物事まで壊してしまうところに、このことわざの大切な意味があります。
似た考えを表すことわざに「短気は損気」があります。これは、短気を起こすと結局は自分の損になるという意味で、「癇癪持ちの事破り」よりも広く、短気そのものへの戒めを表します。
また、「短慮功を成さず」は、考えが浅く短い人は物事を成し遂げられないという意味です。怒りにまかせて話を壊す「癇癪持ちの事破り」と同じく、落ち着いて考え続けることの大切さを教える言葉です。
反対の発想を表す言葉としては、「堪忍五両」があります。腹が立つところをじっとこらえれば、それが大きな利益となって返ってくるという意味で、怒りで物事を壊すのではなく、我慢によって物事を守る考え方を示しています。
このように、「癇癪持ちの事破り」は、怒りそのものよりも、怒りを抑えられないために物事が壊れることを戒める表現です。大事な相談や共同作業ほど、一時の感情で壊れやすいため、落ち着いて話を進めることの大切さを伝えることわざといえます。
「癇癪持ちの事破り」の使い方
健太くんの1コマ




「癇癪持ちの事破り」の例文
- 委員会の話し合いは順調だったが、一人が怒って席を立ち、癇癪持ちの事破りになった。
- 癇癪持ちの事破りというように、短気な発言ひとつで大切な契約が流れることもある。
- 家族旅行の計画はほぼ決まっていたのに、父が細かなことで怒り出し、癇癪持ちの事破りとなった。
- 共同制作では、癇癪持ちの事破りにならないよう、意見が違っても落ち着いて話す必要がある。
- せっかく仲直りしかけていた二人の間に、余計な怒りが入って癇癪持ちの事破りになった。
- 会議で感情的に相手を責めれば、癇癪持ちの事破りとなり、まとまる話もまとまらない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』Cambridge University Press.
・献笑閣主人『月花余情』1746年。
・暁台著、臥央編『暁台先生発句集』1809年。
・『栄花物語』1028〜1092年ごろ。























