【故事成語】
管を以て天を窺う
【読み方】
くだをもっててんをうかがう
【意味】
細い管の穴から広い空をのぞくように、狭い知識や見方だけをもとにして、大きな物事を勝手に判断すること。


【英語】
・have a narrow view.(狭い見方をする)
・not see the forest for the trees.(細部に気を取られて全体を見失う)
【類義語】
・管見(かんけん)
・井蛙の見(せいあのけん)
・葦の髄から天井を覗く(よしのずいからてんじょうをのぞく)
【対義語】
・大所高所(たいしょこうしょ)
・高所大所(こうしょたいしょ)
「管を以て天を窺う」の故事
「管を以て天を窺う」は、中国の古典に出てくる「以管窺天」「用管闚天」という表現をもとにした故事成語です。細い管を通して天を見ても、見えるのは空のごく一部だけであり、それで天全体を知ったつもりになることの小ささを表します。
もとの形の一つは、『荘子(そうじ)』「秋水」にあります。『荘子』は、中国戦国時代の思想書で、荘周とその後学の著とされ、現行本は内篇七篇・外篇十五篇・雑篇十一篇の三十三篇から成ります。
「秋水」は、大きいものと小さいもの、限られた知識と広い道理を対比しながら、人の見方の狭さを考えさせる篇です。冒頭では、黄河の神である河伯が、自分の川を見て天下の美はすべてここにあると思いこみますが、北海に出て海の広さを見て、自分の考えの小ささを知ります。
「用管闚天」が出てくるのは、魏の公子牟が公孫龍に語る場面です。公孫龍は、すぐれた弁論の力をもつ人物として知られますが、荘子の深い言葉を理解できず、魏牟に問いかけます。
魏牟は、公孫龍の理解のしかたを、井戸の中の蛙や、蚊に山を背負わせることなどにたとえます。そこには、限られた立場や小さな力では、広く深い道理を受け止めきれないという考えが重ねられています。
その中で、「是直用管闚天、用錐指地也」と述べます。これは、ただ管を用いて天をのぞき、錐で大地を指すようなものだ、という意味で、広大なものを小さな道具や狭い見方で測ろうとする愚かさを表しています。
この表現では、「管」は細い筒、「天」は広い空を指します。管の穴から空を見ると、たしかに空の一部は見えますが、その一部を見ただけで天全体を知ったとはいえません。ここから、少しの知識や一つの経験だけで、大きな物事を判断することへの戒めが生まれました。
同じ考えは、前漢の司馬遷が撰した『史記(しき)』にも出てきます。『史記』は、黄帝から前漢武帝までを扱う全百三十巻の通史で、本紀・表・書・世家・列伝から成る紀伝体の史書です。
『史記』「扁鵲倉公列伝」では、名医の扁鵲が、虢の太子を診ようとした場面で、「若以管窺天、以郄視文」と言います。これは、管で天をのぞき、すき間から模様を見るようなものだ、という意味で、相手の見方があまりに狭いことを戒める言葉です。
この『史記』の場面では、扁鵲は、太子が本当に死んだのではなく、まだ助けられる状態にあると考えます。しかし相手は、限られた理解だけで扁鵲の医術を疑います。そのため扁鵲は、相手の見方を「管を以て天を窺う」にたとえました。
後には、前漢の劉向が編んだ『説苑』や『韓詩外伝』にも、近い形の「以管窺天」が出てきます。そこでは、管で天をのぞくと、見ようとするものは大きいのに、実際に見えるものは少ない、という意味で用いられています。
さらに後代には、「以管窺天」という四字の形で、見識が一面的で狭いことを表す成語として定着しました。「闚」と「窺」は、同じくうかがい見る意味をもつ字で、典拠では「用管闚天」、後の成語では「以管窺天」の形が用いられます。
日本語の「管を以て天を窺う」は、この漢文の表現を読み下しに近い形で受け継いだ言い方です。現在では、十分な知識や広い視野をもたずに、学問、社会、人の性格、物事の価値などを決めつけることを戒める言葉として使われます。
この故事成語が教えているのは、少し見たこと自体が悪いということではありません。少ししか見えていないのに、それを全体だと思いこむことが危うい、という点にあります。
「管を以て天を窺う」の使い方




「管を以て天を窺う」の例文
- 一度だけ失敗した友人を見て、その人全体を評価するのは、管を以て天を窺うようなものだ。
- 短い動画を一つ見ただけで国の文化を語るのは、管を以て天を窺うに等しい。
- 数人の意見だけを聞いて学校全体の考えだと決めるのは、管を以て天を窺う判断だ。
- 専門書を読まずに見出しだけで研究内容を批判すれば、管を以て天を窺うと言われても仕方がない。
- 旅行で一つの町だけを訪れて、その地方全体を語るのは、管を以て天を窺うことになりやすい。
- 会社の一部の数字だけを見て経営全体を悪いと断じるのは、管を以て天を窺う危険な見方だ。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・『荘子』戦国時代。
・司馬遷『史記』前漢。
・劉向編『説苑』前漢。
・『韓詩外伝』前漢。
・中華民国教育部『成語典』2020年。























