【ことわざ】
火中の栗を拾う
【読み方】
かちゅうのくりをひろう
【意味】
自分の利益にならないのに、他人のために危険を冒すこと。また、危険を承知で、難しい問題の処理や責任ある立場を引き受けること。


【英語】
・pull someone’s chestnuts out of the fire.(人のために危険で難しいことをする)
【類義語】
・泥を被る(どろをかぶる)
・貧乏籤を引く(びんぼうくじをひく)
・危ない橋を渡る(あぶないはしをわたる)
【対義語】
・高みの見物(たかみのけんぶつ)
・触らぬ神に祟りなし(さわらぬかみにたたりなし)
「火中の栗を拾う」の語源・由来
「火中の栗を拾う」は、ヨーロッパに伝わる「猿と猫」の寓話(ぐうわ)にもとづくことわざです。火の中で焼けている栗を拾うという危険な行為を、人のために損な役目を引き受けることのたとえにしています。
この話は、17世紀フランスの詩人ジャン・ド・ラ・フォンテーヌの寓話詩によって、広く知られるようになりました。ラ・フォンテーヌの『寓話詩』の中では、「Le Singe et le Chat」という題で、猿のベルトランと猫のラトンが登場します。
『寓話詩』のこの話は、1678〜1679年ごろに出た『Fables choisies mises en vers par M. de La Fontaine』の第四部に関わるものとして伝わっています。作品では、同じ家に暮らす猿と猫が、炉辺で焼ける栗を見つめる場面から話が進みます。
猿は、自分では火の中の栗を取らず、猫をおだてて取り出させます。猫は前足で灰をよけ、熱さに手を引っこめながら、何度も火のそばへ手を伸ばして栗を取り出します。
ところが、猫が苦労して取り出した栗を、猿はその場で食べてしまいます。猫は熱い思いをしただけで、栗を得ることができません。
この場面から、他人に利用されて危険なことをさせられ、利益はその人に取られてしまうという意味が生まれました。英語にも同じ筋から生まれた言い方があり、人のために危険で難しいことをする意味を表します。
フランス語では、栗を火から取り出すという形の表現が、この寓話と結びついて伝わりました。日本語の「火中の栗を拾う」も、この「火の中から栗を取り出す」という比喩を、漢語調の言い方に整えたものといえます。
日本では、このことわざは明治後期に入ったものと考えられ、旧制中学の英語教科書に載ったイソップ物語を通じて知られるようになったと伝わります。日本語の用例としては、中里介山の『大菩薩峠』(1913〜1941年)に「火中に栗を拾わねばならぬ」という形が出ています。
また、徳富蘇峰の『世界の変局』(1915年)にも、国際関係の文脈で「火中に投して、栗を拾い上げたる」という用例があります。ここでは、他国のために自分から危険な役回りを負うことが、政治的なたとえとして用いられています。
このように、もとの話では「そそのかされて損をする」という意味がはっきりしています。後には、危険を知りながら、あえて責任ある立場を引き受けるという意味にも広がりました。
現在使うときも、単に勇気をほめる言葉としてだけ受け取ると、意味がずれることがあります。だれの利益のために危険を負うのか、本人が利用されていないかという点まで含めて考えると、このことわざの芯がよく分かります。
「火中の栗を拾う」の使い方




「火中の栗を拾う」の例文
- 友人の失敗を一人でかぶって謝りに行くのは、火中の栗を拾うようなものだ。
- 利益は上司が受け取り、危険な交渉だけ部下に任せるのでは、火中の栗を拾うことになる。
- その計画に参加すれば、他社のために火中の栗を拾う結果になりかねない。
- 彼は仲間を守るため、非難を受ける役目を引き受け、火中の栗を拾った。
- 十分な説明もなく責任者にされるなら、火中の栗を拾う前に条件を確かめるべきだ。
- 町内会の問題を放っておけず、彼女は火中の栗を拾う覚悟で話し合いの場に立った。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Jean de La Fontaine『Fables』Bernardin-Béchet, 1874.
・Webster’s New World College Dictionary, 5th Digital Edition, HarperCollins Publishers, 2025.























