【故事成語】
株を守りて兎を待つ
【読み方】
かぶをまもりてうさぎをまつ
【意味】
偶然に一度成功したことに味をしめ、同じようにして再び成功しようとすること。また、古い習慣や方法にこだわり、時代や事情の変化に応じられないこと。


【英語】
・expect good fortune to fall into one’s lap.(努力せずに幸運が舞い込むことを期待する)
【類義語】
・守株(しゅしゅ)
・柳の下にいつも泥鰌はいない(やなぎのしたにいつもどじょうはいない)
【対義語】
・臨機応変(りんきおうへん)
「株を守りて兎を待つ」の故事
「株」は、この言葉では株式ではなく、木を切ったあとに地面へ残る切り株を指します。「株を守りて兎を待つ」は、切り株を見張りながら、もう一度兎が来るのを待つという意味です。
もとになった話は、『韓非子(かんぴし)』(戦国時代末期、紀元前3世紀、韓非の著とされる)の「五蠹(ごと)」に出てきます。『韓非子』は、法や制度によって国を治める考えを説いた書物です。
昔、宋(そう)という国に、田を耕して暮らす農夫がいました。その田の中には、一本の木の切り株がありました。
ある日、一匹の兎が勢いよく走ってきて、その切り株にぶつかりました。兎は首を折って死に、農夫は苦労せずに獲物を手に入れました。
農夫は、この幸運が再び起こると思い込みました。そこで耒(すき:田を耕す農具)を手放し、仕事をやめて、毎日、切り株のそばで次の兎を待ち続けました。
しかし、兎は二度と切り株にぶつかりませんでした。農夫は獲物を得られないばかりか、田も耕さず、宋の国中の笑い者になりました。
『韓非子』は、この話に続けて、昔の王が用いた政治の方法をそのまま使い、今の人々を治めようとする者は、切り株を見張る農夫と同じだと述べています。昔うまくいった方法も、時代や事情が変われば、同じ結果を生むとは限らないという批判です。
したがって、この故事がもともと戒めていたのは、ただ怠けて幸運を待つことだけではありません。現実の変化を見ず、昔の制度や成功例に固執する考え方も戒めています。
日本では、「守株」という二字の形が早くから漢文に取り入れられました。『経国集(けいこくしゅう)』(827年・平安時代前期、良岑安世ら編)には「守株之識」とあり、古い型にこだわる見識という意味で用いられています。
藤原清輔の歌学書『奥義抄(おうぎしょう)』(1135〜1144年ごろ成立・平安時代後期)には、「くひぜをまもる嘲りあらむことをしらで」という用例があります。このころには、「株」を「くいぜ」と読み、「くいぜを守る」という日本語の形でも使われていました。
近代には、夏目漱石の『虞美人草(ぐびじんそう)』(明治40年、夏目漱石著)に「株を守つて兎を待つ」とあります。過去の一度の経験にとらわれ、それをもとに同じ行動を取ることのたとえとして使われています。
菊池寛の『真珠夫人(しんじゅふじん)』(大正9年、菊池寛著)にも、「株を守って兎を待つ」という言葉が出てきます。約束もない相手が、決まった時と場所に再び現れることを期待する場面で用いられ、偶然の再来を待つという現在の意味に近い使い方です。
こうして「株を守りて兎を待つ」は、変化した世の中に昔の方法をそのまま当てはめる愚かさを表す言葉から、一度のまぐれを当てにして同じ幸運を待つことをも表す故事成語として定着しました。努力や工夫をせず、過去の成功だけを頼りにしてはならないという教えを伝えています。
「株を守りて兎を待つ」の使い方




「株を守りて兎を待つ」の例文
- 前回の山勘が当たったからと、今回も勉強しないのは、株を守りて兎を待つようなものだ。
- 偶然売れた商品のまねを繰り返すだけでは、株を守りて兎を待つことになりかねない。
- 客の好みが変わったのに昔の品ばかり並べる店主は、株を守りて兎を待つと評された。
- 一度拾った財布を期待して同じ道を歩き続ける姿は、まさに株を守りて兎を待つであった。
- 過去の成功例をそのまま新しい市場に当てはめるのは、株を守りて兎を待つに等しい。
- 祖父は、偶然の幸運を当てにする孫へ、株を守りて兎を待つなと戒めた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・円満字二郎編『故事成語を知る辞典』小学館、2018年。
・竹内照夫著『新釈漢文大系 第12巻 韓非子 下』明治書院、1986年。
・韓非『韓非子』戦国時代末期。
・良岑安世ほか編『経国集』827年。
・藤原清輔『奥義抄』1135〜1144年ごろ。
・夏目漱石『虞美人草』1907年。
・菊池寛『真珠夫人』1920年。























