【ことわざ】
川中には立てど人中には立たれず
【読み方】
かわなかにはたてどひとなかにはたたれず
【意味】
川の流れの中には立てても、世間の中で人に流されずに生きていくことは難しいというたとえ。世渡りの難しさをいう。


【英語】
・It is hard to make one’s way in the world.(世の中を渡っていくのは難しい)
【類義語】
・綱渡りより世渡り(つなわたりよりよわたり)
【対義語】
・渡る世間に鬼はない(わたるせけんにおにはない)
「川中には立てど人中には立たれず」の語源・由来
「川中には立てど人中には立たれず」は、川の中に立つことと、人の世の中で立っていくことを比べたことわざです。川の流れは目に見えますが、人の集まりの中で起こる考え方の違い、利害、評判、つきあいの難しさは、目に見えにくいものです。
「川中」は、川の中央や川水の中を表す言葉です。古くは『古事記』(712年・奈良時代)や『日本書紀』(720年・奈良時代)にも、川の中や水の中を表す言葉として出てきます。
一方、「人中」は「ひとなか」と読むと、大勢の人のいる中、または世間を表します。『日本書紀』の古い訓読例にも「人中」の用例があり、のちには「他人の中」「世間の様子」を表す語としても使われました。
このことわざは、二つの「中」を対にしています。水の流れの中に立つ「川中」と、人々の関係の中に立つ「人中」を並べることで、自然の流れよりも世間の流れのほうが扱いにくい、という考えを分かりやすく表しています。
古い用例として、『毛吹草(けふきぐさ)』(寛永十五年・1638年序、正保二年・1645年刊、江戸時代前期、松江重頼編)に見えることが知られています。『毛吹草』は、俳諧の作法や語彙を集めた書物で、巻二には「世話」と呼ばれる言い伝えやことわざの類が多く収められています。
『毛吹草』が俳諧のための便利な書として広く用いられたことは、このことわざが江戸時代前期にはすでに、人々の生活感覚を表す言葉として知られていたことを示しています。俳諧は日常の言葉や世間の見方を取り入れやすい文芸であったため、このような世渡りの実感をもつ言い方が収められました。
このことわざの「立つ」は、ただ足で立つという意味だけではありません。世間の中で自分の立場を保ち、人に押し流されずに暮らしていく、という意味を重ねています。
水の流れに耐えることは、目に見える力への対処です。しかし、世間の中で生きるときには、人の気持ち、言葉、立場、約束、評判などに気を配らなければなりません。そのため、このことわざは、世渡りの難しさを川の流れよりも手ごわいものとして表しています。
同じ発想は、「綱渡りより世渡り」という言い方にも通じます。綱渡りが危ない芸であるように見えても、実際の世渡りのほうがさらに難しい、という考えを表す点で近い意味をもちます。
現在では、人間関係や社会生活の中で、正しいと思うことを守る難しさ、周囲に合わせながらも自分を失わない難しさをいうときに使われます。目に見える急流よりも、人の世の流れのほうが読みにくいという、生活の実感から生まれたことわざです。
「川中には立てど人中には立たれず」の使い方




「川中には立てど人中には立たれず」の例文
- 川中には立てど人中には立たれずというように、友人同士の仲裁は思った以上に難しい。
- 会議で全員の意見をまとめようとして、川中には立てど人中には立たれずという言葉を実感した。
- 近所づきあいでは、川中には立てど人中には立たれずと思うような気づかいが必要になる。
- 正しいことを言うだけでは人の心は動かず、川中には立てど人中には立たれずの難しさがある。
- 転校したばかりの弟は、川中には立てど人中には立たれずと感じながら新しい友だちを作っている。
- 職場で立場の違う人たちと協力するには、川中には立てど人中には立たれずという心がけも必要だ。
主な参考文献
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松江重頼編輯、新村出校閲、竹内若校訂『毛吹草』岩波書店、1943年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・Cambridge University Press『Cambridge Dictionary.』























