【故事成語】
君子重からざれば則ち威あらず
【読み方】
くんしおもからざればすなわちいあらず
【意味】
徳のある立派な人も、態度や振る舞いに落ち着きと重々しさがなければ、人から敬われる威厳をもてないということ。


【英語】
・A gentleman who lacks gravity will not command respect.(立派な人も重々しさがなければ敬意を集められない)
【類義語】
・威儀を正す(いぎをただす)
【対義語】
・軽佻浮薄(けいちょうふはく)
「君子重からざれば則ち威あらず」の故事
「君子重からざれば則ち威あらず」は、中国の古典『論語(ろんご)』「学而(がくじ)」に出てくる孔子の言葉です。原文には、「子曰、君子不重則不威、學則不固。主忠信、無友不如己者、過則勿憚改」とあります。日本語では、「子曰く、君子重からざれば則ち威あらず。学べば則ち固ならず。忠信を主とし、己に如かざる者を友とすること無かれ。過ちては則ち改むるに憚ること勿かれ」と読み下します。
『論語』は、孔子自身が書いた著作ではありません。孔子の言葉や弟子たちとの問答が受け継がれ、弟子や後世の人々の手を経て、戦国時代から前漢にかけて、現在に近い形へまとめられていった言行録です。この一節も、孔子が理想とした「君子」の身の修め方を伝える言葉として収められています。
ここでいう「君子」は、単に身分の高い人だけを指すのではなく、学問と徳を身につけた立派な人物を表します。「重い」は、体重が重いという意味ではありません。言葉や動作が軽々しくなく、落ち着きがあり、慎み深いことを指します。「威」も、人を力でおどすことではなく、立派な人柄や振る舞いから生まれる威厳のことです。
したがって、この言葉は、立派な人を目指すなら、ふざけたり軽はずみに振る舞ったりせず、落ち着きのある態度を保たなければならないと教えています。外見だけを厳しく飾れという意味ではなく、内面の誠実さが立ち居振る舞いにも表れることを求めているのです。
この言葉の後には、「学則不固」、すなわち「学べば則ち固ならず」という句が続きます。三国時代の魏に成立した『論語集解(ろんごしっかい)』には、「固」を、物事にとらわれて通じないこととする読み方と、学んだことが堅固にならないこととする読み方の両方が記されています。前者では、学べば考えが狭くならないという意味になり、後者では、態度が軽薄なら学問も身につかないという意味になります。
南宋の朱熹は、『論語集注(ろんごしっちゅう)』で、「重」を「厚重」、「威」を「威厳」、「固」を「堅固」と解しました。そして、外に表れる態度が軽い人は、内面も堅く定まらないため、重厚でなければ威厳がなく、学んだこともしっかり身につかないと説いています。ここでは、落ち着いた振る舞いと、内面に学問を根づかせることとが、一つにつながっています。
さらに、この章では、「忠信を主とすること」「自分を高めてくれる友を選ぶこと」「過ちをためらわず改めること」が、続けて説かれています。つまり、君子の威厳は、偉そうな態度や肩書から生まれるものではありません。誠実に学び、よい友と交わり、自分の誤りを直すという日々の行いが、落ち着いた態度と人からの信頼を生み出すのです。
日本語では、漢文の「君子不重則不威」を訓読した、「君子重からざれば則ち威あらず」という形で受け継がれました。大正時代の『英訳用論語抄 前篇』(1924年)にも、この読み下しが収められており、学ぶ人の態度を戒める一句として、広く読まれてきました。
この故事成語が教えているのは、むやみに堅苦しくしたり、周囲を怖がらせたりすることではありません。自分の役割に責任をもち、言葉や行動を慎み、落ち着いて物事に向き合うことで、初めて人から信頼されるということです。現在では、先生、委員長、指導者、経営者など、人を導く立場にある人の振る舞いを説く場合にも用います。
「君子重からざれば則ち威あらず」の使い方




「君子重からざれば則ち威あらず」の例文
- 先生は、君子重からざれば則ち威あらずという言葉を胸に、落ち着いた態度で児童に向き合った。
- 委員長が会議中もふざけているようでは、君子重からざれば則ち威あらずで、仲間の信頼を得られない。
- 君子重からざれば則ち威あらずという教えに従い、父は感情的に叱らず、静かに理由を聞いた。
- 新任の監督は、君子重からざれば則ち威あらずを心掛け、時間や約束を自ら厳しく守った。
- 責任者には、君子重からざれば則ち威あらずという言葉のとおり、慎みのある言動が求められる。
- 社長は、君子重からざれば則ち威あらずと社員に語り、軽率な発言を避けて誠実に説明した。
主な参考文献
・金谷治訳注『論語』岩波書店、1963年。
・加地伸行全訳注『論語 増補版』講談社、2009年。
・孫路易「『論語集注』(朱熹撰)の日本語訳(學而第一)―『論語集注』を主とする朱子の『論語』解釈―」『岡山大学全学教育・学生支援機構教育研究紀要』第2号、2017年。
・何晏集解『論語集解』。
・朱熹『論語集注』南宋。
・磯邊彌一『英訳用論語抄 前篇』1924年。























