【慣用句】
楔を打ち込む
【読み方】
くさびをうちこむ
【意味】
敵陣や他の勢力範囲の中へ入り込み、その力を二分したり、自分の勢力を広げる足掛かりをつくったりする。また、親しい者どうしの間を隔て、その仲を裂く。


【英語】
・drive a wedge between A and B.(AとBの仲を裂く)
【類義語】
・仲を裂く(なかをさく)
・離間を図る(りかんをはかる)
・食い込む(くいこむ)
【対義語】
・仲を取り持つ(なかをとりもつ)
「楔を打ち込む」の語源・由来
「楔」とは、堅い木や金属などを、先の細いV字形に作った道具です。木や石の割れ目へ打ち込むと、両側を強い力で押し広げるため、物を割ったり、持ち上げたりすることができます。一方で、部材の隙間に差し込み、つなぎ目を固く締めるためにも使われます。
「くさび」という言葉は、日本でも古くから使われてきました。『新撰字鏡(しんせんじきょう)』(898〜901年・平安時代前期、昌住著)には、車の部材を表す字の和訓として、「くさび」に当たる古い言葉が記されています。日本に現存する最古の漢和辞書に、すでにこの道具を表す和語が収められているのです。
『狭衣物語(さごろもものがたり)』(1069〜1077年ごろ成立・平安時代後期)には、「氷のくさび」という比喩が出てきます。夜の間に氷が重なり合って閉じ、物を動きにくくする様子を、つなぎ止める楔にたとえた表現です。このころには、「楔」が道具そのものだけでなく、物と物とを結び付けるものを表す言葉としても用いられていました。
しかし、「楔を打ち込む」という慣用句は、楔の働きのうち、割れ目を押し広げて物を二つに分ける作用をもとにしています。細い先端を隙間へ入れ、上から力を加えると、楔が奥へ進むにつれて、左右の間隔が広がります。この具体的な動きが、まとまった勢力を分断することのたとえとなりました。
軍事に関わる用法では、敵陣の中央へ深く攻め込み、敵の部隊や支配地域を左右に分けることを表します。楔のように先の狭い部分から敵陣へ入り、しだいに攻撃範囲を広げていく形を思い浮かべると、意味をつかみやすくなります。
そこから、相手の勢力範囲へ進出し、将来の拡大につながる地盤を築く意味にも広がりました。「大企業が独占する市場に新しい会社が楔を打ち込む」のように、これまで入り込めなかった領域に足場をつくる場面で用います。
さらに、親しい二人や協力し合う集団の間へ入り、関係を引き離すことも表すようになりました。二つの物の間に楔を入れると隙間が広がるように、うわさや疑いを持ち込み、心の距離を広げることを表します。英語の「drive a wedge between A and B」も、同じく楔の比喩によって、人間関係を悪くする意味を表します。
楔には、部材を固く結び付ける働きもありますが、この慣用句が表すのは、主として「割って入り、押し広げる」働きです。「打ち込む」という力強い動作を伴うことで、まとまった勢力や人間関係の内部へ深く入り込み、その結び付きを分断するという現在の意味につながっています。
「楔を打ち込む」の使い方




「楔を打ち込む」の例文
- 新しい会社は、低価格の商品によって大手企業の独占市場に楔を打ち込むことを目指した。
- 部隊は敵陣の中央に楔を打ち込む作戦を取り、相手の連携を断った。
- 根拠のないうわさは、長年の親友である二人の間に楔を打ち込む結果となった。
- 彼は派閥の結束に楔を打ち込むため、幹部どうしの不信をあおった。
- 小さな支店を足掛かりとして、競争相手の勢力圏に楔を打ち込む計画が進められた。
- 家族の間に楔を打ち込むような無責任な発言は、慎まなければならない。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館国語辞典編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・昌住『新撰字鏡』898〜901年。
・『狭衣物語』1069〜1077年ごろ成立。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus.』























