【故事成語】
君子行いを以て言い、小人舌を以て言う
【読み方】
くんしおこないをもっていい、しょうじんしたをもっていう
【意味】
徳のある立派な人は行動によって自分の考えを示すが、つまらない人は口先だけで立派なことを言うということ。人の本当の価値は、言葉より実際の行いに表れるという戒め。


【英語】
・Actions speak louder than words.(言葉より行動のほうが、その人の考えをはっきり示す)
【類義語】
・不言実行(ふげんじっこう)
・言行一致(げんこういっち)
・君子は言に訥にして、行いに敏ならんと欲す(くんしはげんにとつにして、おこないにびんならんとほっす)
【対義語】
・言行不一致(げんこうふいっち)
「君子行いを以て言い、小人舌を以て言う」の故事
「君子行いを以て言い、小人舌を以て言う」のもとになった言葉は、中国の古い儒書『孔子家語(こうしけご)』巻五「顔回(がんかい)」にある「君子以行言、小人以舌言」です。孔子と、その弟子である顔回との問答の中に出てきます。
顔回は孔子に、小人の言葉には君子の言葉と似ているものがあり、注意して見分けなければならないのではないかと尋ねました。言葉だけを聞けば、徳のある人も徳のない人も、同じように立派なことを言う場合があるからです。
これに対して孔子は、「君子は行いによって語り、小人は舌によって語る」と答えました。「行いによって語る」とは、言葉で自分を飾るのではなく、実際の行動によって考えや徳を示すことです。「舌によって語る」とは、口ではもっともらしいことを言っても、それを裏づける行動がないことを表します。
孔子の答えには、その違いを示す説明が続きます。君子どうしは、正しい行いを求める場面では、互いの誤りを厳しく指摘することがあります。しかし、その場を離れても、相手を大切にする気持ちは変わりません。一方、小人どうしは、よくないことを企てている間は仲よく見えても、用事が済めば互いに憎み合うというのです。
したがって、この言葉は、単に「よく話す人はよくない」「黙っている人は立派だ」と教えているのではありません。言葉の上手さではなく、言葉のあとにどのような行動を取るか、また、その行動が道義にかなっているかを見なければ、その人の本当の人柄は分からないという教えです。
ここでいう「君子」は、儒家が理想とした、学問と徳を身につけた立派な人物を指します。「小人」は、体の小さい人という意味ではなく、徳に欠け、考えや行いが狭く卑しい人物を指し、「君子」と対になる言葉です。
『孔子家語』は、孔子の言行や弟子との問答を集めた書物です。『漢書(かんじょ)』「芸文志(げいもんし)」には二十七巻本が記録されていますが、それは失われ、現在は十巻四十四編の形で伝わっています。現行本は、三国時代の魏の王粛による注本と深く結びついており、その成立については、古くからさまざまな議論があります。
同じ句は、北宋の李昉らが977年から編集し、983年に完成させた『太平御覧(たいへいぎょらん)』巻三百九十「言語」にも、「君子以行言、小人以舌言」と引用されています。長い問答の中から中心となる一句が抜き出され、言葉と行動についての教えとして伝えられたことが分かります。
『孔子家語』は平安時代には日本へ伝わっており、9世紀末に藤原佐世がまとめた『日本国見在書目録(にほんこくげんざいしょもくろく)』にも、書名が記されています。江戸時代には、太宰春台が増注を加えた『孔子家語増註(こうしけごぞうちゅう)』が1742年に出版されました。
原文の「君子以行言、小人以舌言」に、日本語の助詞や送り仮名を補った形が、「君子行いを以て言い、小人舌を以て言う」です。「行い」と「舌」を鮮やかに対比させることで、実践を伴う言葉と、口先だけの言葉との違いを短く表しています。
この考え方は、『論語(ろんご)』「為政」の「先行其言、而後従之」、すなわち、まず言おうとすることを実行し、そのあとで言葉が行動に従うという教えや、「里仁」の「君子欲訥於言、而敏於行」、すなわち、君子は言葉には慎重で、行動には素早くありたいと願うという教えとも響き合います。孔子の教えでは、立派な言葉を並べることよりも、学んだことを自ら実践することが重んじられているのです。
このように、「君子行いを以て言い、小人舌を以て言う」は、顔回の問いに孔子が答えた言葉から生まれました。現在では、約束、指導、仕事、学習などについて、口先だけで終わらせず、まず自分の行動で示すことの大切さを説く場合に用います。
「君子行いを以て言い、小人舌を以て言う」の使い方




「君子行いを以て言い、小人舌を以て言う」の例文
- 先生は、君子行いを以て言い、小人舌を以て言うという教えのとおり、自ら校庭のごみを拾い始めた。
- 君子行いを以て言い、小人舌を以て言うというから、約束を守る姿で誠意を示すべきだ。
- 父は、君子行いを以て言い、小人舌を以て言うを心に留め、家族に頼む前に自分から節電を始めた。
- 委員長は、君子行いを以て言い、小人舌を以て言うという言葉を胸に、誰よりも早く行事の準備に取りかかった。
- 君子行いを以て言い、小人舌を以て言うの教えに照らせば、立派な公約も実行されなければ価値を失う。
- 社長は、君子行いを以て言い、小人舌を以て言うと社員に説き、新しい制度を自ら率先して利用した。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・宇野精一著『新釈漢文大系53 孔子家語』明治書院、1996年。
・王粛注『孔子家語』巻五「顔回」。
・李昉ほか編『太平御覧』983年。
・太宰春台増註『孔子家語増註』書肆嵩山房、1742年。
・『論語』「為政」「里仁」。























