【ことわざ】
暗がりの渋面
【読み方】
くらがりのじゅうめん
【意味】
何の効果もないこと。人に気づかれず、働きかけがむだに終わることのたとえ。


【英語】
・to no avail.(何の成果もなく)
【類義語】
・糠に釘(ぬかにくぎ)
・暖簾に腕押し(のれんにうでおし)
【対義語】
・打てば響く(うてばひびく)
「暗がりの渋面」の語源・由来
「暗がり」は光がなくて暗い場所を指し、「渋面」は不愉快そうに眉を寄せた、苦々しい顔つきを指します。つまり「暗がりの渋面」とは、誰にも顔が見えない暗い場所でいくら不満そうな顔をしても、その表情が相手に伝わらない様子を表した言葉です。
「暗がり」という言葉そのものは古く、『今昔物語集(こんじゃくものがたりしゅう)』(1120年ごろ成立、平安時代後期)には、夕立によって辺りが暗くなった場面を表す「暗がり」の用例があります。もとは、光がなく、物の見えにくい状態や場所を表す、ごく具体的な言葉でした。
一方、「渋面」は、現在では「じゅうめん」と読み、不愉快そうな顔やしかめ面を意味します。古い用例では、『落葉集』(1598年・安土桃山時代)に「十面 じうめん」とあり、『難波の㒵は伊勢の白粉』(1683年ごろ・江戸時代前期)にも「十面」の表記が出てきます。このように、意味と読みが先に定着し、のちに苦々しい表情を連想させる「渋」の字を用いた「渋面」という表記が、広く使われるようになりました。
江戸時代の俚諺(りげん:世間に伝わることわざ)を、絵と俳諧で表した『俚諺俳画賛絵巻(りげんはいがさんえまき)』にも、「暗がりの渋面」が取り上げられています。現存するものは書写年が分かっていませんが、仙鶴が絵を描き、周竹・園女・秋色らが賛を添えた一巻の絵巻で、江戸時代の人々に親しまれた言い回しを伝えています。
また、『俳諧二重染(はいかいふたえぞめ)』(1734年・江戸時代中期、豊嶋治左衛門・豊嶋弥右衛門撰)には、近い形である「闇かりの皺面」という表現があります。「闇かり」は「暗がり」に通じる表記であり、「皺面」は顔にしわを寄せた様子を、字で表したものです。
「闇かりの皺面」と「暗がりの渋面」は、字の使い方こそ異なりますが、暗い所で顔をしかめても相手には見えず、何の働きも生まれないという構図は共通しています。口伝えや書物を通じて用いられていく中で、分かりやすい「暗がり」と、苦々しい顔を意味する「渋面」を組み合わせた現在の形が定着したと考えられます。
このことわざが表すのは、単に苦労がむだになるということだけではありません。怒りや不満を示しても、それが伝えるべき相手の目に触れなければ、何もしていないのと同じです。そのため現在では、注意や抗議、呼びかけなどが相手に届かず、何の効果も生まないことのたとえとして用いられます。
「暗がりの渋面」の使い方




「暗がりの渋面」の例文
- 本人に伝えず、家族のいない部屋で不満を漏らしても、暗がりの渋面にすぎない。
- 誰も見ない掲示板に行事の変更を載せたため、その知らせは暗がりの渋面となった。
- 友人の誤解を解こうとせず、心の中だけで反論していては暗がりの渋面だ。
- 客の声を受け取る窓口がなければ、店への要望は暗がりの渋面に終わる。
- 責任者に届かない場所で抗議を続けても、暗がりの渋面で状況は変わらない。
- 使われていない連絡網へ何度も通知を送るのは、暗がりの渋面に等しい。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・伊藤善隆「翻刻・影印『俚諺俳画賛絵巻』―仙鶴画、周竹・園女・秋色・敬雨ら賛―」『早稲田大学図書館紀要』第63号、早稲田大学図書館、2016年。
・仙鶴画、周竹・園女・秋色ほか賛『俚諺俳画賛絵巻』。
・豊嶋治左衛門・豊嶋弥右衛門撰『俳諧二重染』1734年。























