【ことわざ】
口に栄耀、身に奢り
【読み方】
くちにえよう、みにおごり
【意味】
食べ物や衣服にぜいたくをし、華やかな暮らしをすること。


【英語】
・live in luxury.(ぜいたくな暮らしをする)
【類義語】
・錦衣玉食(きんいぎょくしょく)
【対義語】
・粗衣粗食(そいそしょく)
「口に栄耀、身に奢り」の語源・由来
「口に栄耀、身に奢り」は、ぜいたくが表れやすい二つの面を、「口」と「身」に分けて並べたことわざです。「口」は口に入れる食べ物を、「身」は体に着ける衣服や装身具を表します。つまり、食べる物にも着る物にも金を惜しまず、暮らし全体を華やかにすることを言い表しています。
「栄耀」は「えよう」と読み、「えいよう」が音変化した形です。現在の「栄養」と同じ音をもつ言葉ではなく、栄えて羽振りがよいことや、ぜいたくをすることを意味します。このことわざの「口に栄耀」は、口に入れる食事を豪華にすることです。
「栄耀」という言葉は、初めから食事のぜいたくだけを表していたわけではありません。『凌雲集(りょううんしゅう)』(814年・平安時代前期、小野岑守・菅原清公・勇山文継編)には、「栄曜」の形で用いられ、栄えて世に時めくことや、晴れがましいことを表しています。『凌雲集』は、嵯峨天皇の命によって編まれた、日本最初の勅撰漢詩集です。
室町時代中期ごろに成立した『義経記(ぎけいき)』には、「ゑようの狩」という形が出てきます。ここでは、立派で晴れがましい狩りという意味で使われており、「えいよう」から変化した「えよう」という読みが、すでに用いられていたことが分かります。
その後、「栄耀」には、栄えた暮らしから一歩進んで、ぜいたくや気ままな振る舞いを表す意味が加わりました。キリシタン文献の『こんてむつすむん地』(1610年・江戸時代初期)には、「ゑいようにぶいくせられたる」という用例があり、ぜいたくに育てられたという意味で使われています。
江戸時代初期の『竹斎(ちくさい)』(1621〜1623年ごろ成立)にも、「ゑようの振舞ひ」という言い方が出てきます。この段階では、「栄耀」が、単に栄えている状態だけでなく、度を越したぜいたくな暮らしや振る舞いを表す言葉として定着していました。
さらに、都の錦が著した浮世草子『沖津白波(おきつしらなみ)』(1702年・江戸時代前期)には、「夕には博奕をうち、あしたは口に栄耀食ひ」とあります。「栄耀食い(えようぐい)」は、ぜいたくな物を食べること、すなわち美食を指します。「口」と「栄耀」とが結び付き、食事のぜいたくを表す用法が、はっきりと現れた例です。
江戸時代後期の『摂陽奇観(せつようきかん)』(1833年)には、大阪の食生活について、「殊更口は栄耀に成行」と記されています。これは、食い倒れといわれるほど、大阪では食べ物がぜいたくになっていったという文脈です。「口に栄耀」が、美食に金をかけることを表す言い方として使われていたことが分かります。
近代に入ってからも、この用法は受け継がれました。夏目漱石の『坊っちゃん』(明治39年)には、「禅宗坊主だって、是よりは口に栄耀をさせて居るだろう」とあります。粗末な料理への不満を述べる場面であり、「口に栄耀をさせる」は、おいしく上等な物を食べさせるという意味です。
後半の「身に奢り」の「奢り」は、必要以上に金を費やすぜいたくや奢侈(しゃし)を表します。「身」は、人の体そのものだけでなく、身に着ける衣服も含めて捉えられています。そのため、「身に奢り」は、高価で華やかな衣服を選び、外見をぜいたくに飾ることを意味します。
食事と衣服を一組にして、ぜいたくな生活を表す発想は、「錦衣玉食」にも共通します。「錦衣」は立派な衣服、「玉食」は美しい器に盛ったような上等な食事を表し、ぜいたくな生活全体を指します。江村北海の『日本詩史(にほんしし)』(1771年・江戸時代中期)にも、「錦衣玉食」の用例があります。
このように、「口に栄耀、身に奢り」は、古くから「ぜいたく」を表してきた「栄耀」と「奢り」を、食事と衣服にそれぞれ割り当てた表現です。単に暮らしが豊かであることではなく、美食を求め、身なりにも過分な金をかける生活を、二つの整った言い回しによって表しています。
「口に栄耀、身に奢り」の使い方




「口に栄耀、身に奢り」の例文
- 多額の財産を受け継いだ彼は、口に栄耀、身に奢りの暮らしを始めた。
- 口に栄耀、身に奢りを重ねれば、どれほどの財産があっても減っていく。
- 若いころの祖父は、宴会と高価な着物を好み、口に栄耀、身に奢りの日々を送っていた。
- 会社の金で美食や衣服のぜいたくを楽しむ社長の生活は、口に栄耀、身に奢りそのものだった。
- 口に栄耀、身に奢りを望むあまり、彼女は収入に見合わない出費を続けた。
- 祭りの期間だけは、町の人々も口に栄耀、身に奢りで、ごちそうを囲み、晴れ着を身に着けた。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・小野岑守・菅原清公・勇山文継編『凌雲集』814年。
・『こんてむつすむん地』1610年。
・都の錦『沖津白波』1702年。
・江村北海『日本詩史』1771年。
・夏目漱石『坊っちゃん』1906年。























