【慣用句】
櫛の歯を挽く
【読み方】
くしのはをひく
【意味】
人の往来や物事などが、次から次へと絶え間なく続くことのたとえ。


【英語】
・one after another.(次から次へと)
【類義語】
・引きも切らず(ひきもきらず)
【対義語】
・途切れ途切れ(とぎれとぎれ)
「櫛の歯を挽く」の語源・由来
「櫛の歯を挽く」の「挽く」は、手前に引き寄せるという意味ではなく、鋸(のこぎり)で木を切ることを指します。木製の櫛を作るときは、櫛の材料となる木に歯の位置を細かく付け、その線に沿って鋸を入れ、歯を一本ずつ続けて作ります。この工程を「歯挽き」といいます。
櫛の歯は、細い切れ目を次々と入れて作られます。鋸を入れる作業が途切れずに続くことから、人や物事が間を置かず、次から次へと続くさまを「櫛の歯を挽く」とたとえるようになりました。完成した櫛の歯が整然と並ぶ姿ではなく、歯を一本ずつ連続して作る工程に着目した表現です。
この表現に先立つ古い言い方として、『平家物語(へいけものがたり)』(13世紀前半ごろ成立、鎌倉時代)巻八に「櫛の歯の如し」が出てきます。相撲の勝負で味方が負けそうになったため、染殿の后からの使者が、「櫛のはのごとくはしりかさなって」と、何人も続けて走って来る場面です。ここでは、櫛の歯が連なっているように、使者が絶え間なく重なって来るさまを表しています。
現在の形にいっそう近い用例は、『太平記(たいへいき)』(14世紀後半成立、南北朝時代)巻十にあります。新田義貞が鎌倉幕府に兵を挙げると、各地から鎌倉へ急を知らせる早馬が相次ぎ、「国々の早馬、鎌倉へ打ち重て、急を告ぐる事櫛の歯を引が如し」と記されています。知らせを運ぶ馬が次々に到着し、途切れる暇もない緊迫した様子をたとえたものです。
『太平記』の本文では「櫛の歯を引が如し」と書かれていますが、ここでの「引」は、櫛の歯を鋸で切り作る「挽く」の意味です。のちには、この意味を明確にする「櫛の歯を挽くが如し」という表記が用いられ、さらに「が如し」を省いた「櫛の歯を挽く」も、慣用的な言い方として定着しました。
江戸時代後期の洒落本(しゃれぼん)『仕懸文庫(しかけぶんこ)』(1791年・江戸時代後期、山東京伝著)には、「櫛の歯を、挽くにひとしき人出入」とあります。家々が軒を連ねる場所で、人の出入りが片時も絶えないにぎわいを、櫛の歯を次々に挽く作業にたとえています。
『平家物語』では使者が走り重なるさま、『太平記』では急報を運ぶ早馬が続くさま、『仕懸文庫』では人々が盛んに出入りするさまに使われています。時代や場面は異なりますが、いずれも、同じ種類のものがわずかな間も空けずに相次ぐという点で共通しています。
現在は、多くの場合、「櫛の歯を挽くように」という形で用います。単に数が多いことではなく、電話、来客、注文、知らせ、災難などが、処理する間もないほど続けざまに起こるさまを表すことが、この慣用句の意味の芯です。
「櫛の歯を挽く」の使い方




「櫛の歯を挽く」の例文
- 事故の知らせを伝える電話が、櫛の歯を挽くように本部へ入った。
- 開店すると、注文が櫛の歯を挽くように相次ぎ、店員たちは休む間もなく働いた。
- 祭りの受付には、参加者が櫛の歯を挽くように訪れた。
- 新しい制度についての問い合わせが、櫛の歯を挽くように役所へ寄せられた。
- 嵐が過ぎたあとも、被害の報告が櫛の歯を挽くように届いた。
- 人気の展覧会には、朝から櫛の歯を挽くように見物客が入場した。
主な参考文献
・小学館国語辞典編集部編『精選版 日本国語大辞典』小学館、2005〜2006年。
・松村明監修『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・『平家物語』13世紀前半ごろ成立。
・『太平記』14世紀後半成立。
・山東京伝『仕懸文庫』1791年。
・Cambridge University Press, Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus.























