【ことわざ】
猫に小判
【読み方】
ねこにこばん
【意味】
貴重なものを与えても、その価値が分からない者には何の役にも立たないというたとえ。よいものを生かせない相手に対して、もったいない、むだであるという意味で用いる。


【英語】
・cast pearls before swine(価値の分からない相手に貴重なものを与える)
【類義語】
・豚に真珠(ぶたにしんじゅ)
・馬の耳に念仏(うまのみみにねんぶつ)
【対義語】
・猫に木天蓼(ねこにまたたび)
「猫に小判」の語源・由来
「猫に小判」は、猫に小判を与えても、猫はそれが高価な金貨であることを理解せず、少しも喜ばないという発想から生まれたことわざです。小判は江戸時代の金貨で、楕円形をし、幕府が発行した標準的な貨幣でした。人にとっては価値のある小判も、猫にとっては食べ物でも遊び道具でもありません。この食い違いが、価値を分からない相手に貴重なものを与えても意味がない、という現在の意味につながっています。
古い用例としては、『野郎立役舞台大鏡(やろうたちやくぶたいおおかがみ)』(1687年・江戸時代前期、評判記)に「猫に小判を見せたやう」という形が出てきます。この書物は、役者評判記に分類される江戸時代の資料で、東京大学総合図書館所蔵の霞亭文庫に、貞享四年刊、和泉屋八左衞門板行と記録されています。
その用例では、「ちんふんかんの絶句律詩につづってしさいをこねましたによって猫に小判を見せたやうでよひやらわるいやら」とあります。ここでは、むずかしい漢詩や理屈を並べても、相手がそのよさを受け止められないため、よいのか悪いのかさえ分からない、という文脈で使われています。つまり、初期の段階では「猫に小判を見せる」という、目の前に貴重なものを出しても反応がない様子をそのまま言う形でした。
その後、この表現は「猫に小判を見せる」という動作を含む言い方から、「猫に小判」という短い形へまとまっていきました。長い説明を省き、猫と小判という取り合わせだけで意味が伝わるようになったことで、ことわざとして覚えやすくなりました。猫は小判の価値を理解しない、小判は猫にとって役に立たない、という関係が一目で思い浮かぶためです。
江戸時代後期には、上方のいろはかるたにも採られ、さらに広く知られるようになりました。いろはかるたは、遊びながらことわざを覚える道具でもあったため、「猫に小判」は子どもにも大人にもなじみやすい言葉として広まりました。小判そのものが日常から姿を消した現代でも、このことわざが使われ続けているのは、猫と小判の組み合わせが、価値を分からない相手にはどんな名品もむだになるという意味を、分かりやすく伝えるからです。
このことわざは、相手をばかにするだけの言葉ではありません。価値は、物そのものだけで決まるのではなく、それを受け取る人の知識や関心によっても変わります。高価なお茶碗も、味の深い音楽も、すぐれた助言も、それを味わう準備がない人には十分に届きません。その意味で「猫に小判」は、物や言葉を与える側にも、相手に合った伝え方や時期を考えることの大切さを教えてくれることわざです。
なお、似た形のことわざに「猫に鰹節」がありますが、意味は大きく異なります。「猫に鰹節」は、猫の好物である鰹節をそばに置くように、油断できない危険な状況を表します。一方、「猫に小判」は、猫が小判の価値を分からないことをもとに、貴重なものが相手に生かされないことを表します。同じ猫を用いることわざでも、片方は「価値が分からない」、もう片方は「好物を前にして危ない」という違いがあります。
「猫に小判」の使い方




「猫に小判」の例文
- 高価な茶器を見せても、焼き物に関心のない兄には猫に小判だった。
- 最新の天体望遠鏡を買っても、星を見ない人には猫に小判になってしまう。
- 名人の演奏を聞く機会をもらったが、音楽に興味のない彼には猫に小判だった。
- 祖母の着物の価値が分からないうちは、私にとって猫に小判のようなものだった。
- 難しい専門書を小学生に渡しても、まだ内容が読めなければ猫に小判だ。
- そのすぐれた助言も、聞く気のない相手には猫に小判で終わってしまった。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・水嶋四郎兵衛『野郎立役舞台大鏡』和泉屋八左衞門、1687年。
・Cambridge University Press『Cambridge Advanced Learner’s Dictionary & Thesaurus』。























