【ことわざ】
牛も千里、馬も千里
【読み方】
うしもせんり、うまもせんり
【意味】
早い遅い、上手下手の違いはあっても、同じ目標へ進み続ければ、結局は同じ所に到達するというたとえ。人と速さを競って慌てる必要はないという教え。


【類義語】
・早い馬も千里、のろい牛も千里(はやいうまもせんり、のろいうしもせんり)
・早牛も淀、遅牛も淀(はやうしもよど、おそうしもよど)
・牛の歩みも千里(うしのあゆみもせんり)
「牛も千里、馬も千里」の語源・由来
「牛も千里、馬も千里」は、ゆっくり歩く牛と速く走る馬を並べ、進む速さに違いがあっても、同じ千里の道を進めば同じ目的地に着くという情景をもとにしたことわざです。そこから、物事の上手下手や進歩の遅速に差があっても、目標へ向かって進み続ければ、いずれ到達できるという教えを表すようになりました。
「千里」は、一里の千倍を表す言葉で、転じて、非常に遠い所や長い道のりを指します。このことわざでは、正確な距離を示すのではなく、容易には終わらないほど長い道のりを象徴しています。
牛と馬は、ともに人や荷を運ぶ身近な家畜でしたが、その動きには対照的な印象があります。牛は歩みが遅く、馬は速く走るものとして捉えられ、この違いが、人によって異なる仕事の速さや能力のたとえとなりました。
ただし、このことわざは、特定の人物や一つの歴史的事件を語ったものではありません。牛と馬の歩みを人間の行動に重ねた、日本のことわざとして受け継がれてきた表現です。
現在の形に近い考え方は、「早牛も淀、遅牛も淀」という古いことわざにも表れています。「淀(よど)」は現在の京都市伏見区にある地名で、かつて陸路で運ばれた荷を船に積み替える交通の要所でした。
この言い方は、『虎明本狂言集』に収められた狂言「牛馬」に、「はやうじもよど、おそ牛もよどといふ程に、おそうてもおひつきはせうぞ」と出てきます。速い牛も遅い牛も最後には淀へ着くのだから、遅くても追いつくだろうという意味です。
『虎明本狂言集』は、大蔵弥右衛門虎明が寛永19年、すなわち1642年に書き写した狂言集で、室町時代末期から江戸時代初期にかけての狂言の姿を伝えています。この古例から、進む速さが異なっても行き着く所は同じだという発想が、近世初めまでにことわざとして用いられていたことが分かります。
もっとも、「早牛も淀、遅牛も淀」を「牛も千里、馬も千里」の直接のもとと断定することはできません。前者は速い牛と遅い牛を比べ、淀という具体的な到着地を挙げますが、後者は牛と馬を対比し、「千里」という長い道のりに置き換えています。
「牛も千里馬も千里」という形は、『土佐俚諺集』(昭和10年、高知県女子師範学校郷土室編)にも、そのまま収められています。この段階では読点を入れない表記ですが、現在は二つの句を分かりやすく示すため、「牛も千里、馬も千里」と書く形も広く用いられています。
また、「早い馬も千里、のろい牛も千里」という形では、速い馬と遅い牛の違いが、より直接的に示されています。「牛の歩みも千里」ということわざでは、歩みが遅くても地道に進めば長い道のりを行けるとして、努力を続けることに重点が置かれています。
こうして「牛も千里、馬も千里」は、単に「結果は同じだから何もしなくてよい」という意味ではなく、速さの違いに心を乱されず、同じ目標へ向かって進み続けることの大切さを表すことわざとなりました。人と自分の歩調を比べて焦るときに、着実な歩みを励ます言葉として用いられます。
「牛も千里、馬も千里」の使い方




「牛も千里、馬も千里」の例文
- 同級生より上達が遅くても、牛も千里、馬も千里と考え、毎日の練習を続けた。
- 姉は短期間で資格を取ったが、私は牛も千里、馬も千里の心で基礎から学び直した。
- 父は焦る息子に、牛も千里、馬も千里だから自分の歩調を守れと励ました。
- 新入社員の覚える速さには差があるが、牛も千里、馬も千里で、着実な指導が成果につながる。
- 地域の復旧には長い時間がかかったが、住民は牛も千里、馬も千里を合言葉に作業を重ねた。
- 研究チームは競争を意識しすぎず、牛も千里、馬も千里の姿勢で最終目標を目指した。
主な参考文献
・佐竹秀雄・武田勝昭・伊藤高雄編、北村孝一監修『故事俗信ことわざ大辞典 第二版』小学館、2012年。
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・北村孝一編『ことわざを知る辞典』小学館、2018年。
・高知県女子師範学校郷土室編『土佐俚諺集』高知県女子師範学校郷土室、1935年。
・大蔵虎明『虎明本狂言集』1642年書写。
・馬場俊臣「『牛』に関することわざ―牛の何をどう捉えてきたか―」『札幌国語研究』第15号、北海道教育大学国語国文学会・札幌、2010年。
・馬場俊臣「『馬』に関することわざ―『馬』をどう捉えてきたか―」『札幌国語研究』第20号、北海道教育大学国語国文学会・札幌、2015年。























