【ことわざ】
商いは数でこなせ
【読み方】
あきないはかずでこなせ
【意味】
一つ一つの利益を少なくしても、品物を多く売り、全体として利益を上げるのが商売のこつだということ。


【類義語】
・薄利多売(はくりたばい)
「商いは数でこなせ」の語源・由来
「商い」は、品物を売り買いすること、すなわち商売を意味する言葉です。「商いは数でこなせ」は、これに「数でこなせ」というすすめを重ね、一品ごとの利益を大きく求めるよりも、多くの売買を重ねて利益を積み上げるという、商売の心得を表したことわざです。
「商い」と結びつく動詞「商う(あきなう)」には、古くから売買をするという意味があります。『日本書紀(にほんしょき)』(720年成立・奈良時代、舎人親王ら編)の寛文版訓には、「商価(アキナヒ)て」という形があり、伊勢へ出向いて品物を売買して戻る場面に用いられています。
中世には、日蓮の『窪尼御前御返事』(1281年・鎌倉時代)に、魚を「あきなへて」長者となった者を語る一節が出てきます。ここでは、商うことが品物を売って財を得る営みとして書かれており、「商い」が利益を得る仕事と深く結びついていたことを表しています。
江戸時代になると、井原西鶴の『好色一代女(こうしょくいちだいおんな)』(1686年・江戸時代前期)には、「店商い(たなあきない)」という言い方が出てきます。これは、店を構えて品物を売ることを指し、「商い」が町の店先で日々行われる売買の営みにも用いられていたことを示します。
同じく江戸時代、三井高利が1673年に江戸で開いた越後屋は、のちに町人や庶民を相手とする「現銀安売無掛値」の商法で発展し、薄利多売の商いを行いました。これは、このことわざの直接の出所を示す話ではありませんが、一品を高く売って大きな利益を求めるよりも、買いやすい売り方で多くの客に売るという発想が、実際の商売でも力を持った例です。
利益が少ないことを意味する「薄利(はくり)」は、『交隣須知(こうりんすち)』(18世紀中ごろ)に、「ハクリトハ利スクノウト云事」という形で出てきます。この段階では、もうけの少なさを表す言葉が、すでに用いられていました。
さらに、1912年に刊行された堺利彦編『売文集』には、「薄利多売を主義とし」という用例が出てきます。「薄利多売」は、利益を少なくして品物を多く売り、全体として利益を上げることを表す言葉であり、「商いは数でこなせ」が説く内容を、四字の形で端的に示しています。
このように、「商い」は古くから売買の営みを表し、江戸時代には、店で品物を売る日常の仕事にも広く用いられました。そして、少ない利益を数で積み上げる考え方は、「薄利多売」という言葉にも明確に表されるようになりました。「商いは数でこなせ」は、その考えを商売の心得として言い切る形で表したことわざであり、一度の大もうけではなく、多くの人に買ってもらうことで着実に利益を重ねる道を説いています。
「商いは数でこなせ」の使い方




「商いは数でこなせ」の例文
- 商店街の菓子店は、商いは数でこなせを信条に、手頃な値段の焼き菓子を毎日多く売った。
- 祖母は、商いは数でこなせと考え、朝市で野菜を少し安くして売り切った。
- 学園祭の模擬店では、商いは数でこなせを合言葉に、一杯の利益を抑えた飲み物を多く販売した。
- その文具店は、商いは数でこなせの方針で、ノートを買いやすい価格にして来店客を増やした。
- 新しく開いた食堂は、商いは数でこなせにならい、手頃な昼食を多くの働く人に提供した。
- 市場の店主は、商いは数でこなせを心得て、一品の大もうけより日々の売り上げの積み重ねを選んだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修、小学館大辞泉編集部編『大辞泉 第二版』小学館、2012年。
・舎人親王ら編『日本書紀』720年。
・日蓮『窪尼御前御返事』1281年。
・井原西鶴『好色一代女』1686年。
・『交隣須知』18世紀中ごろ。
・堺利彦編『売文集』1912年。























