【故事成語】
安石出でずんば蒼生を如何せん
【読み方】
あんせきいでずんばそうせいをいかんせん
【意味】
すぐれた政治家や指導者が現れなければ、人々はどうなってしまうのかと、その出現を強く待ち望むこと。


「安石出でずんば蒼生を如何せん」の故事
この故事成語の中心にいる安石は、謝安(しゃあん)の字です。謝安は320年から385年に生きた中国・東晋の政治家で、若いころから名声があり、のちには前秦の苻堅の大軍を淝水で破る大きな功績に関わりました。
この言葉のもとになる場面は、『世説新語(せせつしんご)』(南朝宋、5世紀、劉義慶著)「排調」に出てきます。『世説新語』は、後漢末から東晋までの人物の言行や逸話を集めた書物で、その中に謝安の出仕をめぐるやりとりが短く記されています。
謝安は東山(とうざん)にいて、朝廷からの命令がたびたび下っても、すぐには動きませんでした。東山は浙江省紹興市の南方にある山で、謝安が隠棲した所として知られています。
その後、謝安は桓温(かんおん)のもとで司馬となり、出発のため新亭を発つことになります。見送りに来た中丞の人物は、『世説新語』では高霊、『晋書』では高崧と記されています。
その人物が口にしたのが、「安石不肯出,將如蒼生何?」という言い方です。これは、「安石が出仕しようとしなければ、人民をどうしたらよいのか」という意味で、すぐれた人物が表に出なければ世の人々が困る、という期待と心配をこめた言葉です。
唐代に撰された正史『晋書(しんじょ)』謝安伝にも、よく似た場面が記されています。そこでは高崧が「安石不肯出,將如蒼生何」と言い、謝安が恥じ入った様子を見せたとあり、『世説新語』の「笑って答えなかった」という描き方とは少し趣が異なります。
原文の「不肯出」は「出ようとしない」という意味で、日本語の形では「出でずんば」と整えられました。「ずんば」は「ずは」からできた言い方で、「もし……しないならば」に近く、「蒼生」は人民・多くの人々、「如何せん」は「どうしたらよかろうか」を表します。
謝安は出仕したのち、桓温が帝位をねらう動きをくじき、さらに後年には、前秦の苻堅の侵攻に対して、弟の謝石や甥の謝玄らとともに淝水で大勝しました。若いころの名望と、のちの実績が結びついたため、この言葉は「世の中が必要とする人物が、いまこそ出てきてほしい」という願いを表す故事成語として受け取られるようになりました。
現在この故事成語を用いるときは、単に有名人の登場を待つだけではなく、困難な状況を引き受けられる人物を切実に求める気持ちを表します。人任せの気持ちだけでなく、それほど大きな期待を集める人物の重みも含む言葉です。
「安石出でずんば蒼生を如何せん」の使い方




「安石出でずんば蒼生を如何せん」の例文
- 混乱した会議を収められる人物が見当たらず、安石出でずんば蒼生を如何せんという声が上がった。
- 町の復興計画が進まない中、経験豊かな前市長に対して安石出でずんば蒼生を如何せんと期待する人が多かった。
- 危機に直面した組織では、安石出でずんば蒼生を如何せんと思わせるほどの指導者が求められる。
- 重要な交渉を前に、だれも全体をまとめられず、安石出でずんば蒼生を如何せんという気持ちになった。
- 改革が行き詰まった会社で、社員たちは安石出でずんば蒼生を如何せんと、信頼できる人物の登場を待った。
- 学年行事の準備が難航し、先生たちは安石出でずんば蒼生を如何せんと、調整力のある生徒の力を望んだ。
主な参考文献
・日本国語大辞典第二版編集委員会・小学館国語辞典編集部編『日本国語大辞典 第二版』小学館、2000〜2002年。
・松村明監修『デジタル大辞泉』小学館。
・金井紫雲編『東洋画題綜覧』芸艸堂、1941〜1943年。
・劉義慶撰、劉孝標注『世説新語』南朝宋。
・房玄齢・李延寿ら撰『晋書』唐。























